親の介護で県外の実家に通うAさん…実家を相続したら「土地評価8割減」の特例は適用できる?
高齢の母の介護を行っているご子息の方から、「みんなの税務相談」に実家の相続についての相談が寄せられた。 投稿によると、「母の介護のため県外の実家に3~4か月滞在し、合間を縫って2~3日東京の自宅に戻り、用事を済ませてとんぼ返りしている状況」だという。さらに、「実家に住民票の移転していませんが、母の相続が発生した場合、この状態で小規模宅地の特例が活用できるでしょうか?」と続けている。 ●小規模宅地の特例の適用で相続税を大幅に軽減できる 「小規模宅地の特例」とは、宅地を相続する際に相続税評価額を最大80%減額することができるという制度だ。小規模宅地等の特例の対象となる宅地等の場合に適用が可能だ。 さらに「相続人が配偶者または同居の親族」という条件がある。つまり、相談者は実家に転居届を提出していないと、同居親族と認められないのではないかと心配しているのだ。なお東京の家には相談者の妻が居住しているという。 「小規模宅地の特例」が適用されると相続税の大幅な節税ができるが、条件は厳しいのだろうか。冨田建税理士に聞いた。 ● 住民票はひとつの目安。「実態として同居しているか」で判断される ーー 相談者は、生活の拠点のほとんどが実家であるにも関わらず、実家に住民票を移していないことで、同居親族に該当するかどうかを心配しているようです。このケースは小規模宅地等の特例の適用が認められるのでしょうか? 「住民票はひとつの目安に過ぎず、税務が見るのはあくまで 『実態』です。あくまでも実態が同居しているかが鍵で、いくら住民票が実家にあっても、そこに住んでいるとの実態がなければ特例の適用要件を充足しないと判断されかねません。 逆にいえば、『本当にそこに同居している』ことを税務署に対して十分に立証できる根拠を用意できれば問題はありません。ただし、本当に同居していたとしても、それを立証できなければ税務署も疑問を感じます。このような案件の場合、専門知識を介さない判断はリスクが大きいので、できれば税理士に申告を依頼し、税理士とも相談の上で、十分に根拠を用意すべきでしょう」 ● 同居親族でなくても「家なき子」に該当すれば特例の適用も ーーこのケースに限ったことではありませんが、同居親族に該当しない人が実家を相続する場合、適用できる特例にはどのようなものがあるでしょうか? 「基本的には『特定居住用宅地等の特例』の、別居親族の場合の要件(いわゆる家なき子)に該当するか否かでしょう。 家なき子とは、ざっくりいうと『亡くなった方に配偶者や同居相続人がおらず』、『相続開始前3年以内にその相続人や配偶者、一定の親族や同族会社(大まかにいえば、その相続人もしくは一定の親族で経営している会社)の所有する国内の不動産』に住んだことがない相続人です。 また、単身赴任の場合や被相続人が老人ホームに入居していた場合も『同居』とはいえないですが、一定の要件を満たせば適用できる場合もある点も覚えておいてもよいでしょう。 いずれの場合も細かい適用要件があるので、税理士に相談の上で家なき子に該当するかを判断すべきしょう」 ● 特例の判断は落とし穴があるので、必ず税理士へ相談を ーーそのほかの例として、以下のようなケースでは小規模宅地等の特例の適用が認められるのでしょうか。 ケース1)親の介護などで同居を開始(住民票を移転)後、数か月など短い期間で親が亡くなった場合 「判断が介在するので断言しにくい面がありますが、考え方としては『特定居住用宅地等の特例』を適用することを目的とした同居ではなく、客観的に見て介護のために同居する事が合理的な状況であったかが適用の可否の鍵と思われます」 ケース2)親が要介護になり老人ホームに入った後に、子供一家が実家に引っ越した場合 「この場合は、同居とはいえないので適用はないと考えられます。 いずれにせよ、特例の判断には落とし穴が色々あります。税理士とも相談の上で、意図に反して特定居住用宅地等の特例を崩すことがないよう注意すべきでしょう」 【取材協力税理士】 冨田 建税理士・不動産鑑定士・公認会計士 43都道府県で不動産鑑定業務の傍ら、各種講演・執筆も行う。令和3年に「不動産評価のしくみがわかる本」(同文舘出版)を上梓し増刷。令和5年春には相続税・所得税等を解説する「図解でわかる 土地・建物の税金と評価」(日本実業出版社) を上梓した。 事務所名 : 冨田 建不動産鑑定士・公認会計士・税理士事務所、冨田会計・不動産鑑定株式会社 事務所URL:https://tomitacparea.com
弁護士ドットコムニュース編集部