103万円の壁見直し 静岡県全体で1094億円減試算 大幅な税収減、自治体やきもき
年収103万円を超えると所得税が発生する「103万円の壁」の見直しや「ガソリン減税」の検討が与党と国民民主党の経済対策に盛り込まれたことを受け、大幅な税収減につながると静岡県内の自治体関係者が気をもんでいる。県は、所得税が生じる年収を国民が主張する178万円まで引き上げた場合、個人住民税は県全体で3割減り、1094億円の減収になると試算する。ガソリン税の「トリガー条項」が発動されると、約200億円の減収が見込まれる。 県税務課によると、総務省が示した地方税の減収額4兆円を基に、2023年度決算ベースで県内への影響を試算した。1094億円の減収額のうち、県分は304億円、政令市を含む市町税収は790億円。減収は23年度の個人県民税1511億円の26%、個人市町民税計2497億円の32%に相当する。 一方、ガソリン税のトリガー条項発動で、県税の軽油引取税は1リットル当たり17・1円が減額される。国からの地方揮発油譲与税と合わせて約200億円の税収減になるとみられる。軽油引取税の税収は道路整備のため静岡、浜松両政令市に交付されるため、両市も影響を受ける可能性がある。 103万円の壁見直しについては全国知事会が地方税収減への配慮を国に訴えている。鈴木康友知事は11月上旬の定例記者会見で「地方にとって死活問題」と不足分の財政措置を求め、複数の県内首長らも懸念を示している。 県は新年度予算編成に向けた財源不足額を620億円と試算しており、新たな税収減の影響を深刻に捉える。県幹部は「過去には減税補填債で、減税分を地方が背負わされることもあった。地方特例交付金など見える形で財源措置をしてほしい」と話す。別の幹部は「103万円の壁の引き上げ幅次第で、ガソリン減税の影響の方が大きくなる可能性もある」と議論を注視する。 ■静岡市176億円減 静岡市の難波喬司市長は22日の定例記者会見で、政府が2024年度の経済対策に盛り込むことを決めた年収103万円超で所得税が生じる「年収の壁」の引き上げについて、国民民主党の主張通り非課税額を178万円に引き上げた場合、年間176億円の市税減収になるとの試算を明らかにした。「とんでもない大きな額だ。地方税に影響を及ぼさないよう制度設計を工夫する必要がある」と強調した。 市の23年度の課税ベースで個人市民税の基礎控除額を引き上げた場合について検討した。減収額176億円は、24年度一般会計当初予算の市税歳入1384億円の12・7%に当たる。難波市長は第2子保育料無償化などを例に挙げ、「市の裁量で行っている施策を見直さざるを得ず、市民一人一人への影響が大きい」と述べた。 市長は「生活者の手取りが増え、消費拡大や経済活性化、働き控え解消につながること自体は歓迎すべきこと」との認識を示し、国に対して年収200万円以下の人のみが税制優遇されるような仕組みをつくるよう求めた。 ■浜松市200億円減 浜松市の中野祐介市長は22日までに、年収が103万円を超えると所得税が発生する「年収の壁」について、非課税枠を国民民主党の主張通りに178万円まで引き上げた際、浜松市では年間200億円超の減収になるとの試算を明らかにした。 中野市長は労働力不足の中での働き控え対策や、手取り額を増やすという課題認識については理解を示した一方、「働き控えは(年収130万円の)社会保険料の仕組みから手を付けるべきで、手取りも所得の再配分機能が内包されている国税の課題だ」と指摘。その上で「地方税を巻き込んだ課題対応はやめていただきたい。国税でやってください、というのが正直な感想だ」と苦言を呈した。 所得税が地方交付税の原資になっていることから、「国税の減収によって地方交付税の原資が小さくなるので、その影響も降りかかる可能性がある」とも強調し、「市の事業は市民の生活に直結し、本当に必要なものだけを計上している。(減収となる)200億円の穴をどうするのか、ということも含めて国で議論してほしい」と述べた。
静岡新聞社