スマホならまだイケるのにEVのバッテリーは容量が70%を切ったら交換ってなぜ? 容量以外に求められるEV独特の性能とは
EVのバッテリーにはゆとりが不可欠
世界的に、ほとんどの自動車メーカーは電気自動車(EV)の車載リチウムイオンバッテリーについて、保証期間以前に容量が70%を切った場合、交換などの補償をするとしている。バッテリー容量がまだ7割近く残っているというのに、なぜ交換対象になるのか? 【写真】EVユーザー必見! EV車両を充電できる異色の大容量のポータブルバッテリーが登場 理由は、電気の利用の仕方による。これまで、一般的な電気製品はある一定の電流の使い方だったが、EVはそれと異なる使用条件になる。 電灯はもとより、冷蔵庫や電子レンジ、あるいはスマートフォンなども、基本は一定の電気の流れで稼働する製品だ。もちろん、スマートフォンの場合、動画を観る際などにより多くの電気を必要とする例もあるが、それでもEVほど急な増減はないので、一定電流で機能する定格出力が表示されている。 一方、EVに限らずクルマは、発進・停止を含め頻繁に加減速する使われ方なので、電気の利用も電流が増えたり減ったりし、なおかつ急加速では大量の電気を一気に必要とするので、バッテリー側のゆとりが不可欠だ。 EVのバッテリー容量が70%以下になったとすると、一充電走行距離が減るだけでなく、アクセルペダルを踏んでも運転者の操作(意図)どおりに加速できなくなる。それでは、交通の流れに乗りにくくなるばかりか、緊急回避のような場面で遅れを生じる懸念も出る。そこで、容量が70%を切るような状態になったら、クルマとしての使用には耐えないことになる。 対して、ある一定の電気を使うのが前提の電気製品では、じわじわと電気を使い続けるので、バッテリー容量がゼロになるまで使えるというわけだ。ことに、ニッケル水素バッテリーや、かつてのニッケル・カドミウム・バッテリーは、容量がゼロになってから充電したほうがよいとされている。いわゆるメモリー効果といわれる特性による。
EVのバッテリーは二次利用されている
EVで使い終えたバッテリーを、そのまま廃棄したのでは、まだ容量が7割近く残っているから、資源の無駄遣いになる。そこで、家庭電化製品などと同じように、一定の電力消費で使われる、定置型の電気機器などで利用することにより、容量ゼロまで資源を使い切ることが求められている。たとえば、発電の不安定な太陽光や風力といった再生可能エネルギーの蓄電用だ。 実際、日産自動車の子会社であるフォーアールエナジー社は、JR東日本の踏切の支援電力として、リーフで使い終えたバッテリーを供給している。従来の鉛酸バッテリーに比べ何倍も長もちするので、交換時期を長くでき、費用負担が軽減されるだけでなく、長期の使用に耐えるので万一の備えとしても安心が高まる。 ほかに、系統電力が届かない地域や道路などの外灯用としての再利用もある。小さな太陽光発電と、EV利用後のリチウムイオンバッテリーを組み合わせることにより、どこにでも外灯の設置が叶う。それは夜間の防犯にも役立つだろう。 これらの事例は、製造時の二酸化炭素排出量が多いといわれるリチウムイオンバッテリーを、EV後の二次利用で活用することにより、EV製造時の総CO2排出量の多さを、二次利用ではゼロにできることに貢献し、単にEV一台のライフサイクルアセスメントではなく、のちの社会活動を含めた総合的なCO2排出量管理の考え方につながる。脱二酸化炭素の取り組みが、単一商品の収支だけでなく、その構成部品であるバッテリーの生涯における環境負荷として検証する必要性を示している。 電気の時代となる21世紀の環境家計簿というかCO2の収支は、部品単位での生涯という新たな発想が求められるのである。 ちなみに、現在の日産のEVのバッテリー保証は、年または16万kmのどちらか先に来たほうを期限としている。より長期保証の例として、メルセデス・ベンツの上級EVでは、10年または25万kmの車種がある。 そして、200ボルト(V)での普通充電を主体にすれば、バッテリーの劣化はほぼ意識せずに済むと語るEV技術者もいる。バッテリーにやさしい充電という意識が、容量70%近くまでより長期間 EVを使い切るコツといえるのではないか。
御堀直嗣