農林中央金庫、米ドル債5億ドルを起債-市場の信頼取り戻す
(ブルームバーグ): 農林中央金庫が米ドル建て債の発行条件を決めた。年限5年のグリーンボンド(環境債)で、発行額は5億ドル(約741億円)。外国債券投資に関連して多額の損失が発生する見通しを公表して以降、初のドル建て債の発行となる。
事情に詳しい関係者によると、米国債に対するスプレッド(上乗せ金利)は123ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)で、2023年3月の前回債(110bp)を上回った。利率は5.094%。複数のトレーダーによれば、今回債は現在市場で約100bpでの取引気配を示しており、投資家の買い意欲がうかがえる。
農林中金は4-6月期に4127億円の純損失を計上。金利上昇で運用収益が悪化した外国債券の売却に伴い、今期は約1兆5000億円の損失となる見通しだ。過去に発行したドル建て債のスプレッドは損失が判明した5月から大幅に拡大してきたが、その後の資本増強や米国景気の底堅さを背景としたドル債スプレッドの世界的なタイト化を受けて縮小傾向にある。
5バリューアセットの上田祐介チーフ・インベストメント・ストラテジストは、農林中金の債券を「買いたい投資家は多い」とし、政府からの「一定の保護を受けやすく安心感があり、スプレッドが乗ってくれば」投資妙味があると指摘した。
今回債のスプレッドが前回債を上回ったことについて、上田氏は「運用額が巨額でポジションリスクが大きい」ことから「普通の結論」だと述べた。もともと「ほかの銀行に対して過度にタイトになりにくい」と指摘、「運用がうまくいっていたためこれまではフェイバーだった」と話した。
ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の伴英康アナリストは、バランスシート構造改革や海外金利急上昇後のネガティブキャリー解消にかかるコストを吸収するための資本増強を経て、「起債行動も正常化に向かいつつあることが示唆されている」との見方を示した。
農林中金は9日、発表文で今回の外債発行は「外貨調達基盤をより強固にする」ことを目指し、顧客や会員への「安定した機能・サービス提供に貢献する取り組み」だとしている。リードブックランナーでグリーン・ストラクチャリングエージェントであるJPモルガン・チェースの担当者にコメントを求めたが、回答はなかった。