菜七子は女性騎手初挑戦のG1で勝てるのか?
この8日には藤田騎手が滋賀県の栗東トレーニングセンターに駆けつけてコパノキッキングと初コンタクト。ダートコースを予定通りにゆったりと1周し、好感触をつかんだ。 「凄く乗りやすくて、いい馬。いいイメージはできました。G1は選ばれた馬、選ばれた人しか乗れない。チャンスをいただいた関係者に感謝し、結果を残したい。いまは“やってやるぞ”という気持ちです」 フェブラリーステークスはダートの王者を決める一戦だけに他の馬も手ごわい。まずは、もうひとつの前哨戦の東海ステークスを好時計で逃げ切り、目下6連勝中のインティ。鞍上は時計が巻き戻ったかのように今年絶好調の武豊だ。さらに、モーニン、ゴールドドリーム、ノンコノユメと過去3年の覇者も顔をそろえる。 しかし、コパノキッキングは強い明け4歳世代の代表だ。勢いでは負けていない。通算9戦7勝。鋭い末脚で目下、重賞2連勝中。ぶきっちょな馬だが、あたりが柔らかい藤田には合っている。 不安材料を挙げるとすれば、やはり初めてのマイル戦になる点。あるベテランのトラックマンは「根岸ステークスで1400メートルを克服したが、本質的には1200メートル向きで、マイルは長い。それにG1が初めてとなる菜七子ちゃんがうまいこと乗れるやろか」と厳しいジャッジを下す。 こと距離に関しては未知数。ただ、実際のところ陣営はそれほどナーバスになっていない。若さは可能性の裏返し。コパさんは「馬も騎手もG1初挑戦。“不安なカップル”だよね。でも、フレッシュでいいじゃない。前走の競馬を見ると、うまくこなしてくれんじゃないか、とも思っているんだよ」と言う。
勝利条件はそろっている。何より、藤田騎手が腕を上げている点だ。17年3月にコパノアラジンに騎乗を依頼し、オーナーと藤田騎手の最初の橋渡しをした田所調教師が、その成長ぶりに目を細めた。 「最近はずいぶん上手になったね。乗ってもらったのは騎手時代に根本調教師と仲が良かったからだけど、いきなり3着に来て、その後は2つ勝った。以前は乗ってて、ふわふわしていたが、いまはしっかり収まっている。追っててぎくしゃくしない。相当体幹を鍛えたんだろうね」と騎乗ぶりを分析し、エールを送った。 「あとは馬込みの中から抜け出せるようになれば。その点が上位クラスとの違いだろうが、遜色はないよ。コパノキッキングはレースのしやすい馬だからおもしろいんじゃないかな」 フェブラリーステークスの「コパノ」といえば定評がある。14年、15年と連覇したコパノリッキーが思い浮かぶ。特に14年は最低人気からの勝利で、あっと言わせたもの。「あのとき、私は馬主13年目。田辺騎手もデビュー13年目だったんだよ。えっ?今回。騎手が4年目で馬は明け4歳かぁ」と、コパさんは思わせぶりだった。 送り込む村山調教師はコパノリッキーでの連覇はもちろん、12年テスタマッタでも勝ち、このレース3勝。騎手時代にはサンフォードシチーで自身のG1レースで最高成績となる2着にも入っている。 オーナーが風水師だけあって陣営の縁起担ぎも徹底している。 「自分たちの身を清めないと」とコパさん。村山調教師とともに伏見稲荷、伊勢神宮に参拝し、当日を迎える。 「今年のラッキーカラーは白と赤とゴールド。菜七子騎手も最近は真っ赤なブルゾンを着ているようだね」と、風水パワーも総動員する。 G1初騎乗初制覇となれば、88年オークスの熊沢重文、91年天皇賞・秋の江田照男騎手以来史上3人目の快挙でもある。17日は、日本の競馬史に残る歴史的な1日になるのかもしれない。 (文責・山本智行/スポーツライター)