『SHOGUN 将軍』と『忍びの家 House of Ninjas』にみる俳優の海外進出のかたち
賀来賢人:コロナ禍を機に自らNetflixに売り込み
一方、同時期に配信され、Netflix(ネットフリックス)で人気を博している『忍びの家 House of Ninjas』は現代のドラマだ。主演の賀来賢人が共同エグゼクティブプロデューサーに名を連ねる。監督は米国人のデイヴ・ボイル、制作は東宝子会社のTOHOスタジオ。徳川家康に仕えた服部半蔵の末裔(まつえい)の一家が主人公で、創作の世界において、服部半蔵は忍者の代名詞である。 代々「忍び」を家業としてきた俵家は、両親(江口洋介、木村多江)、長男(高良健吾)、次男(賀来)、祖母(宮本信子)ら7人家族。6年前の事件で長男を失い、「忍び」の仕事から離れていた。だが、敵対する「忍び」の一派や新興宗教の教祖(山田孝之)が絡み、一家は争いに巻き込まれていく。忍者ものにありがちな派手な妖術の類はなく、地味な「忍び」のありようと、バラバラになった家族の再生が描かれる。日本の閉塞感にも目が向けられている。 コロナ禍で仕事が止まり、俳優として危機感を抱いた賀来が企画し、自ら書いたプロットをNetflixに売り込んだことから制作がスタートした。初めから世界配信を意識していた賀来と、忍者ものに興味があったNetflix側の思惑とが一致したようだ。
“職人かたぎ”の分業制にとらわれず
日本の俳優が海外に活動の場を広げるケースは珍しくない。ハリウッドでの出演が注目されがちだが、中国、台湾、韓国などで活躍する俳優も多い。アジアで人気が出て日本へ“逆輸入”されるケースもある。 第2次世界大戦前からハリウッドで活動する俳優はいたが、いずれも日本でキャリアを積む前に渡米している。1960年代には黒澤映画が評価され、三船敏郎が海外作品に多数出演。その後、丹波哲郎、千葉真一、高倉健、松田優作、工藤夕貴らが続いた。 渡辺謙は『ラストサムライ』で脚光を浴び、これを機に舞台にも進出している。ハリウッドに拠点を移した真田は同作出演の後、映画、テレビシリーズなどで活躍中。いまや2人は世界で成功した日本人俳優の代表である。 日本から海外に発信される作品も増えている。その背景には動画配信サービスの拡充がある。世界進出のハードルが下がり、日本の作り手側も「世界で通用するもの」という意識が強くなってきた。 膨大な製作費が投入される海外作品に日本企業が出資すれば、さらに日本の人気俳優の起用も期待できるだろう。 俳優の働き方は変化し、多様性が出ている。海外進出、プロデュース、芸能事務所からの独立、自分の考えを主張等々、俳優は演技に専念すればいいという“職人かたぎ”の分業制にとらわれない人が増えてきた。 今回、初のプロデューサー業に挑んだ賀来は、雑誌のインタビューで「賀来賢人にできるんだから(自分にもできる)、と思ってくれる仲間が増えてほしい」と言っている。(※1) 2022年の大手事務所からの独立で、自由な活動ができると実感しているようだ。4月3日には、ボイル監督と共に映像制作会社を設立することもインスタグラムで発表した。 日本発の映像作品躍進の背景には、訪日客が増加し、現実の日本を目にする機会が増えたことも見逃せない。何度も来日する人は観光地ではない場所も訪れ、いろいろな体験をするようになった。きっかけはマンガやアニメでも、歴史的なものや、日本の日常生活に触れる中で、ステレオタイプでない日本を求め、受け入れる下地が出来上がってきたのだろう。