凄腕バンドガールたちが声優にも挑戦!ガチアニメ『ガールズバンドクライ』仕掛け人の告白
『ガールズバンドクライ』は音楽と青春をテーマにしたガールズロックアニメだ。’24年4月~6月までの春期にTOKYO MX等で地上波放送され、現在もAmazonやABEMA等、さまざまなプラットフォームで配信されている。 【画像】すごい…ガチのバンドガールの声優挑戦が上手すぎる 「原作のない完全オリジナル」「メインキャラクターは新人声優の起用」「声優は元々凄腕のバンドガールで劇中曲を実際に演奏する」「イラストルックの3Dアニメーション」という馴染みのない方式であったこと、冒険的な要素を多く抱えていたこと、放送期間が人気原作のアニメや話題作と重なる激戦のシーズンであったことで、放送開始前はほとんど注目されていなかった。 ところが、第1話の放送直後から人気が爆発、オフィシャルミュージックビデオの再生数も跳ね上がり、テレビアニメ放送前から公開していた『爆ぜて咲く』のYouTubeにおける再生回数は1250万回を突破、ブルーレイ&DVDの販売枚数は’24年春期アニメのトップを争うなど、いわゆる「覇権アニメ」の風格を見せる作品となった。本作のプロジェクトを立ち上げ、中心となって進めたのが東映アニメーションに所属するプロデューサー、平山理志(ひらやま・ただし)氏だ。令和の現在、『ガールズバンドクライ』で描こうとしたもの、そして物語のこれからを平山氏に聞いた。 ――経歴を教えてください。 「ずっとアニメが好きでこの世界に入りました。この世界に入ろう、と決めるきっかけになったのが『機動警察パトレイバー2 the Movie』という作品です。アニメでこんなポリティカルフィクションができるなんて、こんな作品がやりたい、アニメの演出家になりたい、と夢を持ってマッドハウスという会社に入りました。そこで杉井ギサブローさんという監督についていろいろと教えていただく中で、自分には演出の才能はないと思い知らされ(笑)、プロデュース方面に進むことにしました」 ――杉井さんは『鉄腕アトム』の頃からやっていらっしゃるアニメ界のレジェンド中のレジェンドですね。プロデューサーを志してからの平山さんの作品はどんなものが? 「マッドハウスからサンライズという会社に移り、そこでいろいろとプロデュースしましたが、皆さんに一番知っていただいているのはアイドルアニメの『ラブライブ!』になるかと思います。’19年にサンライズから東映アニメーションに移り、『ガールズバンドクライ』の製作を始めることになりました」 ――『ガールズバンドクライ』は’24年春に放送開始ですから、着手から5年もかかっています。プロジェクトが長期に及んだ理由は? 「『ガールズバンドクライ』では、キャラクターデザインを担当されているイラストレーター・手島nariさんの絵をそのまま3Dアニメで動かす〝イラストルックの3Dアニメーション〟という試みにチャレンジしているのですが、この技術開発にかなり時間がかかったというのがいちばんの原因ですね。トライアンドエラーを続け、気がついたら5年経っていた、という感じです」 ――開発期間が延びたことでバジェットが大きくなったと思いますが、採算的には大丈夫でしたか? 「予算はすごくかかりました。でもおかげさまでお客様にすごく支持していただけましたので、なんとかなりそうです。それは本当にホッとしました」 ――プロジェクト中止の危機はありましたか? 「何度もありました。ベンチマークとする作品がないため、シナリオにまつわる作業が難航しました。技術的な課題をなかなかクリアできなかったのもやはりベンチマークとなる作品がなかったからでした。スケジュールの遅れに伴って予算が増え続けていく中で噴出するさまざまな問題を一つ一つ解決していく日々でした」 ――大ヒットした今、考えてみても、3DCGというまだユーザーが慣れていない見た目、若いバンドガールが声優に挑戦、原作なしのオリジナルと、無謀としか言えない計画だと思うのですが、どんな形で始まったのでしょう? 「最初に『ラブライブ!』シリーズでご一緒させてもらった酒井和男監督と脚本の花田十輝さんに声をかけさせていただいて、ブレインストーミングを始めました。その時にあったのはまず〝音楽ものをやろう〟ということ。僕らは音楽を中心に据えた作品を一緒にやってきた経験があり、それは自分たちの強みとして活かせると思いました。いろいろと案を出し合う中で花田さんから〝上京物語にしてはどうか?〟という提案がありました。そうして出来上がった第1話の初稿のシナリオをいただいた時に“これは今までにないものだ、これを形にしよう”と強く思いました」 ――ガールズバンド〝トゲナシトゲアリ〟を構成するメインキャラ5人は視点人物である井芹仁菜、彼女と出会いお互いの運命を大きく変えることになる河原木桃香、バランサーとなる如才なく世渡り上手な美少女・安和すばる、そして後から加入することになる、仁菜のひとつ下の天才少女・海老塚智、女性に大人気の穏やかながら毒のある最年長者で、南アジア出身のハーフであるルパですが、どうしてこの5人になったのでしょう? 「かなり初期の段階で5人というのは決まっていました。今のアニメファンの皆様に見ていただける作品をと考えていたので、その年代に馴染みが深いであろう、ボーカロイド文化を意識してボカロ文化でよく使われるバンド編成を考えると、ボーカル、ギター、ドラム、キーボード、ベースという5名が必要になったという形です」 ――5人のメンバーの中のひとり、物腰柔らかながら過激な面もある、大人気キャラの〝ルパ〟は南アジア出身のハーフです。これまでのアニメでは、外国人のキャラが1人入る時は大体、西洋人でしたが? 「現在の日本は、旅行客だけでなく、移民や出稼ぎなど日常生活の中で海外出身の方と会う機会がとても多くなっている。5人全員が日本人というのはむしろ不自然だということになりました。で、今の日本に働きに来る方々ってどこの国の方なんだろうって考えると、アジア圏が一番多いかなと。日常生活で出会っているのはアジアから来る方かなということで、そこにしています。 ルパには、現在の川崎のリアルを仮託させています。今、川崎の臨海部の人口のうち、10%弱は外国出身です、川崎を舞台にする以上、そこを描かないことは考えられませんでした。また、彼女が日常の中で経験していることも描かなければと思いました。第8話で牛丼屋さんでアルバイト中のルパが外国人であることをサラリーマンに責められる場面がありますが、そのサラリーマンも悪人というわけではないんです。ああいうことは日常の風景の中にある。その日常から目をそらさない地に足のついた物語を作りたかった」 ――ルパが自分に理不尽な言葉を浴びせたお客さんを笑顔で見送った後、彼女を心配する仁菜に「私にもロックは必要ということです」と言ったのは作品を象徴するような印象的なシーンだと思います。 「みんな、いろいろ背負っているんです。そしてそれは視聴者の皆様も同じだと思っています」 ――作中の〝トゲナシトゲアリ〟は、オーディションで選ばれたメンバーがリアルでバンド活動をしながら、キャラクターの声優に初挑戦しています。放送よりバンド活動が先行し、アルバムも発売されています。そしてYouTubeでのオフィシャルMVは放送の約1年前に投稿されています。ここまで時間をかけて本格的なバンドを作り上げていった理由は? 「音楽アニメをやるからには、ちゃんとしたバンドがバックグラウンドとして存在していないと、そもそもその映像に説得力が出ないと思いました。しっかり音楽を作るということで、音楽好きな人、音楽に対してアンテナが高い人に対して映像が説得力を持つ、という考えがありました」 ――本編放送開始前に発売されたシングルには、キャラクターたちの日常が描かれたボイスドラマも入っています、それはどういう理由から? 「例えば、こういう日常回もあっても楽しいよねっていうことで。 お客さんに幅広く楽しんでいただくためです。テレビアニメ本編中は緊張感のある展開が続くので、こういうキャラクター性も、肩の力を抜いて楽しんでいただけたらと。初期のMVでは『ガールズバンドクライ』のキャラクターが登場しないものもありますが、それはより幅広い層にまずは、音楽面からアピールをしようと考えた結果でした。MVは、6割ぐらいは外国から見ていただいていました。入口を複数持って、多くの方に見ていただくためのきっかけにしよう、という試みはある程度うまくいったと思います」 ――イラストルックの3DCGアニメにこだわった理由は? 「これまでの手描きアニメは技術的には天井に近づいていて、あとは資本力での殴り合いになることは見えていて、一方でCGアニメでは技術的にまだまだ余白がある。であれば、日本でなければできないことをやって、日本のCGアニメーションはこんなことができるんだよ、と世界に示して今後の発展の道を示す必要があるのではないかと考えていました。それをちゃんとやるためには研究開発は必要で、 大変な道を歩くことになるなっていうことは薄々感じていましたが、やはり大変でした」 ――3DCGにこだわり抜いたのはどうしてでしょうか? 「’18年、『スパイダーマン:スパイダーバース』という3DCG映画が、アメリカから出てきたのは大きかったです。あれは衝撃的で、こんなことを外国でやられてしまっては、日本のアニメはどうなってしまうんだ? と思いました。あれよりももっとすごいものを作らないと、先を行かなければ、と。『スパイダーマン:スパイダーバース』はシナリオもすばらしくて、シナリオ分析もしたんですけれど、話としても面白くてかつ、絵的にも見たことがないものでした。しかもそれが、マニア内の評価にとどまったりするのではなく、世界的にヒットしたことに意味があった。言ってみれば、日本の手描きの作品のルックをアメリカ人がきちんと咀嚼(そしゃく)して、新しい、いい感じのルックにして、素晴らしいエンターテインメントとして出してきた。これに対抗する手段を考えなければということでした」 ――それが〝イラストルックの3DCGアニメーション〟ということでしょうか。 「はい。僕たちのやり方として、『ガールズバンドクライ』では、手島nariさんの絵が大人気で、じゃあこれをそのまま動かす形でやろうということになりました。これは世界の他のどの国もやっていなくて、日本でなければできない発想であり、これがヒットして、一つの方法論として確立するのであれば、それは他の国がやろうとしても、追いつくのに数年がかかるだろうと。Vチューバーが人気を博している時代なら、手描きの見た目ではない3DCGのキャラも受け入れられるのでは? と思いました」 ――有名声優を集めてファンの耳目を引く、というのはセールス上有効な手段だと思うのですが、それをやらなかった理由は? 「昔から、面白ければお客様は観てくれる、と思っていて、実際面白ければ観てもらえました。なので、作品の力を信じていこうと」 ――今回〝トゲナシトゲアリ〟のメンバーに求められたことは、〝バンドマン〟であることと〝声優〟であること、どちらの比重を多く求められたのでしょう? 「バンドマンであることです。音楽をちゃんとやってる人たちって絶対耳がいいので、声優への挑戦もすぐうまくなるだろう、という期待があり、実際、すごくうまくなりました」 ――安和すばる役・美怜さんは、2話での初登場から、すごい勢いでうまくなっていきました、11話での音声テストでの演技はずっと聞いていられる魅力があります。 「はい、美怜さんはあっという間に上手くなりましたね」 ――プロデューサーとして、作品の中で、平山さんがこれは絶対やりたかった、ということは、なんだったでしょうか? 「僕自身は、作品全部を推したいという思いだけでした。あえて言えば、僕は花田さんの脚本を酒井監督の下で東映アニメーションで映像にしたかった。花田さんの脚本は情報量が多く、リアリティを求められるので、絵コンテを描く人にも相当の力量が求められるんですよ。酒井監督はそれができる人です。そして酒井監督の絵コンテもアニメーターに高い技量を求めるのですが、東映アニメーションのCGアニメーターの皆さんはそれができる人たちでした。それを放送まで着地させるのが僕の務めでした」 ――プロデューサーの役割として、各所との関係調整というのは大きいですよね。『ガールズバンドクライ』はメインの舞台となる川崎市の各店各施設、各所との協賛が大変うまく回っており、地域と共に盛り上がっていました。 「あれは、僕も含めスタジオの制作の皆での地道な努力の成果です(笑)。電話をかけて、こういうアニメです、こういう場面でこういう風に使わせていただきたいのですが、というのを一軒ずつお話して、OKだったらお店に伺って、写真を撮らせていただいて、というのを積み重ねました。説明すれば大抵面白がってもらえて、ほとんどNGにはならず、協力していただけました。関わった人が全員幸せに、Win-Winになれるようにという形でやっていました」 ――舞台が川崎というのはなぜ? 上京物語として、熊本からやってきた主人公の仁菜がなぜこの街を選ぶことになったのでしょうか? 他に候補は? 「横浜とか面白いかもしれない、と初めは思ったのですが、この物語にはちょっとお洒落で合わないかなというのがあって(笑)。そのあと東京23区内はどうかなと考えました。でも若い女の子が上京してきて、すごく貧乏な中でがんばってバンドをやっていく、というのを考えると、23区内だと家賃が高くて現実味がない。そうなった時に、最初に考えていた横浜の隣の川崎はどうかという話が持ち上がりました。で、ロケハンに向かったら駅を出たところに〝音楽のまち・かわさき〟という垂れ幕があって、楽器屋さんもライブハウスもある。なるほど、音楽の土壌があるんだなと。そして、家賃を調べたら結構安い」 ――劇中で仁菜が住んでいる部屋は、いくらくらいなのでしょうか? 「’20年にロケハンした時の感覚ですと、大体5万弱ぐらいです。物価高になり、今はその額では住めないかもしれませんが。当時は3万円台でも仁菜が住めそうな物件がありまして、これならいけるなと」 挑戦的、実験的に令和の今の現実を描く、地に足のついた物語を描くという試みは、次第に形をなし、それは放送後、たちまちに熱い人気を集めていく。 インタビュー後編では、実際に番組が動き出してからについてを中心に、物語の中にあった細かな謎、ポイント、そして話題を呼んだ最終回について尋ねていく。
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