壇ノ浦に消えた神器をめぐる謎と冒険 豊かな想像力で迫る、長編歴史ロマン(レビュー)
源平合戦の際の壇ノ浦の戦いで、まだ幼かった安徳天皇とともに海に沈んだとされている三種の神器の剣。実はそれは、地上のどこかに隠されている――。その神剣を探し出す命を受けて旅に出た若武者たちの冒険を描く一作。 皇位の証である三種の神器が揃わないまま即位したことを悔やむ後鳥羽上皇。承久の乱によって隠岐に流されることとなった彼に同行し警護にあたっていた忠臣の若武者、小楯有綱は、上皇の寵姫、伊賀局から内密の使者となるよう告げられる。使命の内容は具体的に明かされなかったものの、与えられた太刀と扇から神剣を探し出すことと理解した有綱は、備前の刀工、伊織を従えて旅に出る。道中、二人が瀬戸内の大三島で出会った巫女の少女、奈岐は「剣は土佐の山中にある」と主張。同行を強く願う彼女も連れて山奥へと入っていった彼らが見つけたものは何か。 海に沈んだのは本当に安徳天皇と神剣だったのか。日本史上の大きな謎に、豊かな想像力で迫っていく一大ロマンである。 有綱らを待ち受けるのはさまざまな出会いと、謎につぐ謎。さらにはやっかいな追手もいる。剣のありかも気になるところだが、次第に鮮烈に浮かび上がってくるのは、合戦前後の皇族たち、平家の落ち武者たち、そしてその周辺の人々のさまざまな思惑の複雑な絡み合いと、合戦後の時に過酷で哀しい人生。彼らが何をよすがにし、どのように生き延びようとしたのか、その思いが胸に迫ってくる。 また、父親から阿呆綱と言われ続けてきた次男坊の有綱と、実家と縁を切ったうえ、師匠の跡を継ぐ道も断たれてしまった伊織という二人の若者、そして不思議な能力を発揮する奈岐のキャラクターも魅力的。性格が異なる二人の若者が協力しあっていくバディ物語として、また、それぞれが生き方を見つめ直していく成長譚としても楽しめる。 [レビュアー]瀧井朝世(ライター) 1970年生まれ、東京都出身、慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務を経てライターに。WEB本の雑誌「作家の読書道」、文春オンライン「作家と90分」、『きらら』『週刊新潮』『anan』『CREA』などで作家インタビュー、書評、対談企画などを担当。2009年~2013年にTBS系「王様のブランチ」ブックコーナーに出演。2017年10月現在は同コーナーのブレーンを務める。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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