神田さんが描いたイラスト

今も大学時代の仲間たちと集まっている。11人からなるグループで、その名は『アル中』。在籍していた理学部数学科の中で、とくに勉強が苦手なメンバーで結成された。公式なサークルではなく、私たち限りの集団だ。グループ内の女性は３人だけで、″アル中ガール″と呼んでいる。一方、８人の″アル中ボーイ″はサッカー好きで、時々草試合をしていた。規定より３人も少ないチームのため、毎回ボロ負けだったが、それでも最高に楽しかった。なぜならメインは、試合後の「乾杯！」だったからだ。 【画像】個性あふれる神田愛花さんの直筆イラスト(1回～50回)はこちら 私がアル中メンバーになったのは、大学３年生の時のこと。当時、欠席し続けていた授業の単位を取るため、なんとかしてノートのコピーを入手しなければならなかった。当然ながら真面目に授業に出席している人たちは、そんな行為を快く思うわけがない。なかなか貸してくれる人はいなかった。だが、私と同じくノートを探していたアル中ボーイは、見事にGETしていたのだ。彼らに頼るしかない。さらにあちらは、ずっと女子メンバーを入れたがっている様子だった。相思相愛ということで、私の仲良し女子グループと男子が合体した。 それからというもの、学園祭でコーンスープ屋さんを出店したり、サッカー合宿とは名ばかりの旅行をしたり、深夜に青山霊園の通りを誤って逆走して悲鳴を上げたり……色々なことを経験してきた。人見知りが激しく、入学して半年間は一人で過ごしていた私。だが、アル中メンバーと出会ったおかげでお酒に強くなれたし、単位も取れた。とても充実した大学生活を送ることができたのだ。 ◆姿を消したリーダー それもこれも、しっかり者のリーダーがいたからだ。すべての活動は彼が一人で仕切ってくれていた。卒業してからも彼の号令のもと、年に二度は集まっていたのだが……ある時リーダーが、誰にも断りなくグループLINEから脱退。一時期、音信不通になった。 実は、私にもアル中と疎遠になった時期があった。NHKに入局し、福岡にいた数年間、原因不明の吹き出物が顔全体を覆った。上司のもとには毎日のように、「顔がブツブツで怖い。なぜ彼女がテレビに映っているのか？」「我が家の娘のほうが綺麗。ニュースを読ませないで」といった視聴者からの声が届いていた。その間、吹き出物がない私を知っている人とは誰とも会いたくなかったのだ。 だからきっと、リーダーの身にも何か起こったのだろうと心配した。だが、その何かを克服できるのは自分自身だけ。リーダーの不在中、メンバー全員が交代で仕切り役を担い、アル中の活動を絶やさないようにした。 そして２年くらい前のある日、突然リーダーがグループLINEに戻ってきた。「この度、結婚しました！」と。グループで最後の独身だったリーダー。（ひとりきりじゃなかったんだ、良かった！）と、正直ホッとした。「おめでとう！」と「おかえり！」のメッセージが飛び交い、「どうして連絡つかなくなったの？」なんて野暮なことを聞く人は、誰もいなかった。 再びリーダーは本領を発揮。忘年会やキャンプを企画してくれた。そしてついに先日、世のリーダーたちの真骨頂企画″自宅でのホームパーティ″が開催されたのだ。 アル中ガールとして、リーダーの奥様にはちゃんとご挨拶をしたい。ファッションにも気を遣い、それなりに高価な本革の長ズボンに、清水の舞台から飛び降りる思いで買ったブランド物のバッグを持って家を出た。手土産には、高級シャンパンと高級イチゴを購入。完璧だ。 だが、行きの電車の中でふと思い出した。彼が学生時代、自分の部屋でフェレットを放し飼いしていたことを。当時私は、フェレットを飼っている人に会うのも、犬猫以外の生き物を室内で放し飼いにしている人に会うのも初めてだった。遊びに行った時、部屋の隅っこを全力で走り、たたんである布団の間から突然ニョロッと顔を出してくるフェレットに、思わず（気持ち悪っ！　服が汚れちゃう！）と思ってしまったのだ。 もし、今もリーダーが何かを放し飼いしていたら!?　今日の服装は動物NGだ！　しかしお宅まではあと数駅……どうする愛花！ かんだ・あいか／1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』（フジテレビ系）にメインMCとしてレギュラー出演中 『FRIDAY』2024年5月24日号より イラスト・文：神田愛花