【プレミアリーグ分析コラム】異様な試合…。なぜアーセナルは逃げきれなかった? マンCの運命を変えた一手
プレミアリーグ第5節、マンチェスター・シティ対アーセナルが現地時間22日に行われ、2-2の引き分けに終わった。退場者を出したことで後半は自陣深い位置で強固なブロックを敷くアーセナルに対して、マンチェスター・シティが試合終了間際に劇的な同点弾を決めることができた理由とは?ある選手の投入が流れを変えた。(文:安洋一郎) 【動画】マンチェスター・シティ対アーセナル ハイライト
●マンチェスター・シティとアーセナルの“天王山”は痛み分けに “痛み分け“という言葉がこれ以上似合う試合はないだろう。 この試合の結果が今シーズンのプレミアリーグの最終順位を占う可能性もあるほどマンチェスター・シティとアーセナルの強さは拮抗しており、シーズン序盤戦での顔合わせとはいえ、大一番への注目度は高まっていた。 しかし、ハイレベルな試合を期待したファンの気持ちとは対照的な内容に終わった。マンチェスター・シティの“心臓“とも言えるロドリの負傷交代とレアンドロ・トロサールの遅延行為による退場を筆頭に、両チームともに大きなストレスを抱えながら時計の針が進んだ。 これまでのレビュー記事では、主審への言及はほとんどしたことがなかったが、この試合に関してはマイケル・オリバーのレフェリングに疑問を呈せざるを得ない。 アーセナルの1点目の場面では、自らの下に呼び出していたカイル・ウォーカーが定位置に戻る前に笛を吹いたことで、結果的にアウェイチームが有利の形となり、ジェレミー・ドクとトロサールの間で遅延行為に対するペナルティが違うなど一貫性を欠けたシーンもあった。 トロサールの退場は笛が鳴った後にボールを蹴ったことによる自業自得であることは間違いないが、試合をコントロールできていたとは言い難いだろう。 そしてこのベルギー代表FWが前半終了間際に退場となったことで試合の攻勢は大きく変わる。その時点でアーセナルが2-1とリードしていたこともあって、後半からミケル・アルテタ監督のチームは自陣に[5-4-0]のブロックを敷いて守ることを決断した。 その結果、後半のボール支配率はマンチェスター・シティが88%、アーセナルが12%と他では見たことがない片方のチームが一方的にボールを持ち続ける異様な試合展開となった。 ●マンチェスター・シティがドン引きのアーセナルに大苦戦した理由 後半からアーセナルは自陣深くで[5-4-0]のブロックを形成したが、相手チームの選手の動きに合わせて、時には[6-3-0]で構えて守備を行っていた。彼らのリトリートの守備には昨シーズンから定評があり、直近のトッテナムとのノースロンドンダービーでも、ボール保持へのこだわりを捨てて、低いポゼッション率ながらも完封勝利を収めている。 [5-4-0]のブロックには密度があるため、マンチェスター・シティに所属する選手たちの高い技術があっても中央の狭いスペースを打開するのは難しく、アーリング・ハーランドへのクロスに対してはウィリアン・サリバとガブリエウ・マガリャンイスが完璧な対応で防いだ。 このような自陣に引いて守る相手に対しては、ラインを押し下げてからのマイナスのクロスが有効になるが、ロドリの負傷交代とケビン・デ・ブライネの欠場によってマンチェスター・シティには狭いシュートコースを打ち抜ける選手がいなかった。 ミドルシュートが得意な選手がいなかった影響は試合の最後まで感じさせられた。ロドリの代わりに投入されたマテオ・コバチッチは左右にボールを振るというタスクこそこなせていたが、フィニッシャーとしての精度はイマイチで、放った4つのシュートは全て枠外に飛んだ。 コバチッチのシュートが空回りした影響もあって、さらにその後ろからルベン・ディアスがシュートを放つシーンも多かったが、こちらも惜しいシュートを打つことができなかった。左サイドバック(SB)のヨシュコ・グバルディオルが持ち前の攻撃センスから強烈なシュートを放った場面では、アーセナルの守護神ダビド・ラヤがビッグセーブ。 展開としてはマンチェスター・シティが圧倒的に優位かと思われたが、どの攻撃も決め手に欠き、得点の気配がないまま試合も終盤へと進んだ。 ●悪い流れを変えた選手交代 試合の潮目が変わったのは、78分のジャック・グリーリッシュの投入だろう。 相手選手からボールを隠すことが上手いこのイングランド代表MFは、ギリギリまで相手選手を引きつけてからフリーの選手を見つけ、そこにピンポイントでパスを出すことができる。視野が広く、ドリブル、パスの技術も高いレベルで兼ね備えているからこそできるプレーで、彼以上にチームメイトがプレーしやすい環境を作り出せる選手はそういないだろう。 単独での打開力は先発出場したドクの方があるかもしれないが、後半のアーセナルのように引いた相手にはグリーリッシュのような選手の方が活きやすい。少しでもマイナスのクロスからシュートを放つ選手たちの質を上げるには、よりフリーでシュートを打たせる状況づくりが重要で、90+8分に決めた劇的な同点ゴールは彼を投入した意味が発揮されたシーンだった。 直前に自らの仕掛けからコーナーキックを獲得したグリーリッシュは、ショートコーナーでリスタートすると、リターンパスを受けてからボックス内へと進入。3人のアーセナルの選手を自らに釘付けしてからマイナスのコバチッチへとパスを出した。 これによって相手の最終ラインが大きく押し下げられたと同時に3選手を引きつけていることからクロアチア代表MFに足を振る余裕が生まれ、彼が放ったシュートのディフレクトをグリーリッシュと同タイミングで投入されたジョン・ストーンズが押し込んだ。 ジョゼップ・グアルディオラ監督の采配が的中したマンチェスター・シティが土壇場で追いついた。ただ、コバチッチやルベン・ディアスらミドルシュートを打つ役割を担っていた選手たちの質が、残りのベンチメンバーを見ても解決するのは難しかったことを踏まえれば、彼らの質を上げるアシストができるグリーリッシュの投入はもっと早くても良かったと思う。 首位を争う天王山でアウェイチームが1点のリードを得ながら退場者を出すという“いびつな試合”となったことで、試合の展開は予想もつかない方向へと向かってしまったが、両チームともに苦しい状況でライバルに“負けなかった”ことはポジティブに捉えるべきだろう。 2月に予定されているエミレーツ・スタジアムでの同カードでは、90分間を通して11人vs11人というフェアな状況で熱戦をみせて欲しい。 (文:安洋一郎)
フットボールチャンネル