【令和No.1の魔球大研究】佐々木朗希、高橋宏斗、菅野智之…分かっていても打てない秘密に迫る!
日本のプロ野球界において″魔球″は存在するのか?
大魔神・佐々木主浩(かづひろ)のフォークに潮崎哲也のシンカー、伊藤智仁のスライダーに川崎憲次郎のシュート。約90年の歴史を数える日本プロ野球界において、投手たちは50種類以上と言われる球種を投じ磨き上げてきた。その中のほんの一部――歴戦の猛者たちをきりきり舞いにさせた伝家の宝刀を、ファンはいつしか”魔球”と呼ぶようになった。 【画像】愛車の助手席に"小芝 風花似"美人彼女を乗せてドライブデート「菅野智之」 現役投手で言えば、メッツの千賀滉大(31)の「お化けフォーク」やパドレスのダルビッシュ有(38)が投じる「浮き上がるスライダー」がそれに当たるかもしれない。では令和6年、日本のプロ野球界において″魔球″は存在するのか? FRIDAYはセ・パ両リーグの現役選手やOB、そして審判に取材を敢行した。 ソフトバンク、巨人で18年間の現役生活を送り、昨年引退した松田宣浩氏は、「魔球といえば楽天の則本昂大(33)のフォークがまず思い浮かぶ」と話す。 「通常、投手がフォークを投げると、一度球が浮くんです。ところが、則本のフォークはまったく浮き上がらない。そして、振り出した直後、ホームベースの3m手前から垂直にドンッと落ちるんです。あれは分かっていても振ってしまう」 今季から抑えに転向し、現時点でパ・リーグのセーブ王に君臨している男の生命線は、いまでも健在だ。 セ・リーグに目を移すと、広島の絶対的守護神の名前が挙がった。 「栗林良吏(りょうじ)(28)のフォーク、あれは打てない。原理は分からないんだけれど、アイツの球って全部″白く″見えるんですよ。縫い目が見えない。だから、回転じゃ『フォークが来た!』とはわからない。そのうえ、″元祖お化けフォーク″の使い手で現広島投手コーチの永川(勝浩)さんくらい落差があって、ほとんど抜けず低めに来る。四死球での自滅を待つしかないですね」(在京球団外野手のA氏) 大きく落ちるフォークはリリーフが投じるイメージが強いが、’22年に完全試合を達成した令和の怪物の決め球でもある。 「ロッテの佐々木朗希(22)のフォークは、揺れながら落ちる。もちろん落差もスゴいんだけど、軌道がおかしい。則本や栗林ほど低めに制球されてなくても、バットが空を切るんです。たぶん、ちょっとジャイロ成分があるのでしょうね」(パ・リーグ球団コーチのB氏) 東京工業大学の青木尊之教授らがスーパーコンピューター『富岳』を使って行ったシミュレーションによれば、ジャイロ成分を持つフォークは、1回転ごとに空気の流れの影響を受けて変化する。 そのため佐々木のフォークは、海近くに位置する本拠地の″マリン風″の気まぐれな風向きを味方につけ、150㎞/hを超える速さで変幻自在に揺れ落ちる。 セ・リーグ球団の選手たちが口を揃えて話すのは、「今年に入って中日の高橋宏斗(22)のスプリットは手が付けられなくなった」という事実だ。 「去年までは正直、最速158㎞/hのストレートだけをケアしていればよかった。スプリットはカウント球と決め球の見極めが簡単だったんです。ところが、今年はスプリットの精度がケタ違い。真っ直ぐを張って打ちに行くと、視界から突然消えるようにストンと落ちる。球速も140㎞/hを超えてくるので見分けがつきません。そりゃ、防御率がダントツでナンバーワンになるわけです」(セ・リーグ球団内野手のC氏) ◆骨にまで伝わる衝撃 高橋宏に似た高速スプリットはドジャースの山本由伸(26)も投じているが、前出の松田氏は「同じ落ち球でもDeNAの東克樹(28)のチェンジアップはかなり特殊」と話す。 「腕の振りがよくて、右打者の外に逃げていくように落ちていく。あれほど緩急があると打てません」 これに賛同するのは、セ・リーグのベテラン野手D氏。 「あまりにチェンジアップにやられて腹が立ったので、ずっと張ってたんですよ。そんな時、甘いコースに来たから、満を持して、スイングしに行った。それでも泳いで三振です。思いっきり腕を振っているのに球はゆっくり来て、振り始めたらもう一度”止まる”、そんなボールなんです。対戦は少ないですが、オリックスの宮城大弥(ひろや)(23)も似たチェンジアップを投げます」 6人の名前が挙がったタテ変化のボールに続き、ヨコ変化を見ていこう。ここまで各球団の主戦投手や守護神が並んでいたが、セ・リーグ球団コーチのE氏は巨人と熾烈(しれつ)な優勝争いを繰り広げた阪神の左腕、高橋遥人(28)のスライダーを推す。 「右打者のインコースに食い込むスライダーはまるでブーメランのようで、バットとボールが同極同士の磁石のように反発し合うようなイメージ。左打者の腰を引かせることができるキレもある。今年は曲がり幅の小さいスライダーも投げるようになってお手上げです」 広島のエース・大瀬良大地(33)のカットボールは、高橋遥のスライダーとは別の角度から打者を苦しめる。 「小さな変化のカットはバットには当たるんです。でも、大瀬良の球はインパクト手前でいきなり食い込んでくる。それがバットの根本に当たったりすると、衝撃が骨まで伝わってきて、痛いのなんの。 しかも大瀬良は、手首角度とかリリース時の指先の押し出しで、曲がり幅を大きくしてくることもある。これはバットにも当たりません。人柄も表情も柔和なのに、投げる球はエゲつないですよね(笑)」(前出・A氏) 今季完全復活を果たした巨人の菅野智之(34)は、誰もが認めるスライダーピッチャーだ。 「とくにアウトコースがまったく打てない。振ろうとしてもバットとボールがすれ違う。振り出しからの曲がり幅が大きいからです。『甘く見えるから、それがどんな球でも振りたい』っていう打者心理を利用した変化球ですね。ド真ん中を振ったつもりなのに、小林誠司(35)はボールゾーンで捕球してました」(前出・松田氏) NPBで17年にわたって1147試合の審判を務めた橋本信治氏は、「スライダーよりも菅野のアウトコースのストレートが魔球だ」と述懐する。 「打者がバットの先で空振りするんです。通常、ストレートの空振りはバットの上や下を通るのに……。実は彼、スリークオーターの投手ですが、身体の使い方がサイドスローなのです。腕が横回転するので、右打者から逃げていくような真っ直ぐの軌道が実現する。けっしてカットボールのような変化はしていない。でも、右打者のバットが届かない。唯一無二のストレートでした」 ◆打席で見た者にしかわからない”速さ” 橋本氏は、もう一つの″魔球ストレート″を目撃したという。 「ホークスの和田投手(毅、43)です。若い頃は、変化球と制球力で勝負していた、どちらかといえば軟投派の投手でした。ところが、年齢を重ねるにつれ、球が速くなっていっている。とくに、低めの伸び方が異常でした。スピードガンに現れないスピードが乗っています。スピンが利いているのでしょうね」 かつて巨人の主砲だった高橋由伸は、140㎞/hにも満たない山本昌のストレートを″最も速いピッチャー″と形容した。打席で見た者にしかわからない”速さ”が、プロの世界には存在する。 「調子がいいときの阪神の才木浩人(25)のストレートは、藤川球児くらいホップする。通常の投手の真っ直ぐは1分あたり2200~2300回転ですが、彼の場合は約2600回転です。ボールがお辞儀しないので、ボールの下を振ってしまう」(前出・E氏) ここまで11選手による12種類の″魔球″を紹介したが、FRIDAYに証言した誰もが口を揃える″唯一無二の魔球″が存在する。今季圧倒的な強さでパを制したソフトバンクのエース、リバン・モイネロ(28)のパワーカーブだ。 「ものスゴい落差。体感では80㎝くらい落ちます。高めのボールだと思って見逃しても、当たり前のように低めのストライクゾーンに入ってくる」(前出・松田氏) 「投げた瞬間、ボールはポンと上に抜ける。普通ならそれを目で追うんですが、リリースの位置が高いのでアゴを上げて追ってしまう。その時点でもう負けです。そこから一度左打者に近づいてきて、身体をのけぞらせると急ブレーキで落ちていく。月並みな表現ですが、本当に2階から落ちてくるようなボールです。為す術がありません」(前出・C氏) モイネロは現在、先発転向1年目で最優秀防御率のタイトル争いを大きくリードしている。そのウラには、球界ナンバーワンの″魔球″があった。 読者諸兄にとっての魔球王は、誰だろうか。 『FRIDAY』2024年10月11日号より
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