男性の生きづらさの原因は、すべてのジェンダーの生きづらさにつながっている?
男性は弱音を吐けない。吐いても受け皿がない
――でも、その「男性はこうあるべき」というマジョリティの“当たり前”に違和感を抱いたり、苦しんでいる男性も多いのではないか、とも思います。 福田さん:そうですね。特に男性特有の苦しみが生まれやすいのは「社会の歯車から降りるという選択肢が許されていないこと」「弱音を吐いても社会に受け皿がないこと」ではないかと思います。 以前、田中先生に取材させていただいたときにおっしゃっていたことなのですが、夫が働き、妻が専業主婦・またはパートでサポートするというケースの場合、男性が「精神的にしんどいから仕事をやめたい」と言っても、家庭が立ち行かなくなるので実行できない。だから妻は夫の弱音に対して「どうにかして頑張ろう」と励ますしかなくなってしまうんですよね。 これは女性が悪いのではなく、構造の問題だと思いますが、男性のつらい点だと思います。女性が稼ぎ、男性が家事をするというケースもありますが、まだまだ少数派ですし、偏見もありますよね。 田中さん:僕もまさにそこだと思います。僕は2016年に『男が働かない、いいじゃないか!』という本を出したんですね。編集さんが本のタイトルだけ持ってきて、こういう本を出しませんかと誘ってくださったんです。そのタイトルを見たとき、「これやばい、売れちゃう!」と思ったんですよ (笑)。男性が抱えている問題を端的に、キャッチーに表現したタイトルだと感じたからです。 福田さん:「男だって弱音を吐いていいよ」「仕事をしなくてもいいよ」と言われたとしても、その受け皿がない。弱音を受け止めてくれる仕組みがない。仕事をやめたら詰んでしまう。だから「男は弱音を吐かない」し「仕事をやめられない」。そこにしっかり切り込んだタイトルだと思います。 田中さん:でも、そんなには売れなかったんですよ(笑)。そのときに、社会ってそんな簡単には変わらないんだと思い知らされましたね。 その本を買っている人を書店で見かけたこともあるのですが、新書と新書のあいだに挟んで、隠しながら買っていました。息苦しさを感じている人でも、手に取って、買って読むことが恥ずかしいと感じてしまうということですよね。問題は根深いな、と感じます。 でも僕は、ここを崩さないと、女性の社会的位置の向上や、セクシュアルマイノリティの方が社会で認められることは難しいんじゃないか、とすら思うんです。だってそれを邪魔しているのは「異性愛者男性」というマジョリティで、そんな彼らを支えているのは「男は何十年も文句を言わずに働く」を始めとする、「社会は男性がメインである」が前提の考え方だと思うからです。 ▶︎続く後編では「男性のセルフケア」についてトーク。「男性は自分のケアが苦手」といわれるのには、どのような理由があるのでしょうか。 社会学者 田中俊之 1975年生まれ。専門分野は男性学。大妻女子大学社会学専攻准教授。日本の戦後社会のジェンダーについて研究している。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)、『男がつらいよ』(KADOKAWA)、『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社)等、男性学やジェンダーについての著書多数。 編集者・ライター 福田フクスケ 1983年生まれ。雑誌「GINZA」にてコラム「◯◯◯◯になりたいの」、Web「FRaU」(講談社)・「Pen」(CCCメディアハウス)などでジェンダーやカルチャーについての記事を連載中。田中俊之・山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)など書籍の編集協力も。その他雑誌やWEB、書籍などでも幅広く活躍中。 イラスト/キムラカオル 取材・文/東美希 企画・構成/木村美紀(yoi)