男性の生きづらさの原因は、すべてのジェンダーの生きづらさにつながっている?
今でも多くの男性は「男は強い方がいい」と思っている?
――生来の性格や考え方、環境によって「ジェンダー格差」に疑問を持つようになった、ということですね。ではそうでない男性……例えば性別的役割分業がある中で教育を受けてきて、それを“固く信じていた”男性の価値観は今、変わりつつあるのでしょうか。 田中さん:大きな目で見れば変わって来ているとは思います。90年代の男性学の本を読むと、チェックリストに「洗濯物を外で干せますか?」なんて項目があるんです。つまり、今から30年くらい前だと、「男なのに洗濯物やらされてるよ」という感覚があったということです。ベビーカーを押したり抱っこ紐をつけていると珍しがられる、なんて記述もあります。 今はそんな感覚、全然ないですよね。そう考えると、30年前とは雲泥の差があると思います。 福田さん:そうですね。特に育児は自分事としてとらえる男性が増えたと思います。でもこれは世代というより、共働きが当たり前になり、「保育園に入れない」「パートナーの給料が減らされる」というようなことが、“男性自身の”困りごとになったからかもしれません。 その反面、「いつ産休に入るかわからない女性が就職で不利になるのは当然だ」と経営者目線で主張する男性も、世代問わず今でもたくさんいますが、経営者からすると、それが“自身の”困りごとだからでしょうね。 田中さん:同感です。変わっていない部分もたくさんある。福田さんが以前お書きになった現代ビジネスの記事で引用されていた、作家・白岩玄さんの「バカとエロの大縄跳び」という表現がとても良いなと思っていて。今でも男性の多数はこの大縄跳びを続けているんですよ。 先日、近所の小学校高学年くらいの子が「俺、女の子の着替え11回覗いたことあるぜ!」って友達に自慢しているのを見かけました。「すごいな!」と思いましたね。もちろん悪い意味で。どうしてこんなことが令和の小学生にまで継承されているんだろう。 そういう状況を見かけると、男と女がいて、男は女が好きで、男の方が強くて…みたいな感覚を疑っていない人はまだたくさんいると感じますね。 福田さん:そうですね。ジェンダーについて記事を書く僕のような界隈では、「変化している」「変化しなければいけない」という情報が飛び交っています。でも、「この感覚は世間とは乖離している」と意識しておかなければならないな、と感じることがあります。やはりまだ「男は強いほうがいいんだ」みたいな価値観が、全体では主流だなと僕も感じます。 田中さん:あと、男性には「性別が自分の生き方に影響を与えている」という視点がない人も多い気がしますね。企業研修で、「定年退職後にすることがなくて困る人が多い」という話をしたあと、「定年退職者としてどんな人を思い浮かべましたか?」と聞くと、みんなおじさんを思い浮かべていたりする。 でも、定年まで働くことを“男性だから”はっきりと思い描けている、という視点がない。 「定年まで働くことが当たり前だと思えるのは、男性だからですよ」と言われて初めて気づく。マジョリティの男性は違和感を抱きづらいから、気づきにくいんですよね。