コロナ集団感染で夏の甲子園史上初の不戦敗から3年後、大学で成長し再び全国の舞台へ
センバツで不発、夏を前に打撃改造に手応え
2021年春の選抜高校野球大会。52年ぶりの出場を果たした宮崎商は天理(奈良)との初戦に1-7で敗れた。先発した日高が7回6失点(自責2)と力投するも、打線は相手エース・達孝太(現・北海道日本ハムファイターズ)を打ちあぐね1得点。「5番・右翼」でスタメン出場した西原も3打数無安打2三振と沈黙した。 西原は宮崎に戻ってすぐに打撃改造に着手した。プロ野球選手の動画を参考にしながら打撃フォームを修正。効果はすぐに表れ、センバツから約1カ月後の春季九州大会では1試合3本塁打の離れ業をやってのけた。すべては、最後の夏、甲子園でリベンジするためだった。 夏は激戦の宮崎大会を勝ち抜き、再び聖地への切符をつかんだ。初戦の相手はまたしても強豪の智弁和歌山。相手にとって不足なし。舞台は整った、はずだった。
悔しさ押し殺し、次のステージへ誓った「努力」
甲子園での開会式を終え、来たる初戦に向け最終調整を重ねていたさなか、出場辞退を余儀なくされる出来事が起きた。新型コロナウイルスへの集団感染。まさに天国から地獄。選手たちはすぐには現実を受け入れることができず、落胆した。西原ももちろん「悔しかった」。しかし、引きずることはしなかった。 「あの一件があって、野球に対する思いがさらに強くなりました。自分はこれから先も、野球を続ける。それなら、また全国の舞台に立てるよう努力しないといけないと思いました」 あの夏が野球人生の最後になったチームメートもいる。一方、高校時代からNPB入りを目指していた西原にとっては通過点にすぎなかった。最後の夏、甲子園でアピールする機会は得られなかったが、秋にプロ志望届を提出。ドラフトで指名はかからず、4年後を見据えてレベルアップするため地元を離れて名門・上武大の門をたたいた。
逆境乗り越えた経験糧に、走攻守で成長
上武大では通常の練習に取り組むだけでなく、野球指導施設に通ったり、技術向上のための情報を自ら調べたりして実力を磨いた。 昨秋の明治神宮野球大会で大学での全国デビューを果たし、初戦で敗れたものの富士大学のプロ注目左腕・佐藤柳之介(4年、東陵)から2安打をマーク。今春のリーグ戦はスタメンに定着して打率5割(30打数15安打)、1本塁打と好成績を残しベストナインに輝いた。本人も「走攻守、すべてで一段上に上がれた感じがします」と大学での成長に手応えを感じている。 「高校のチームメートともう一回全国の舞台に立てたのはうれしかったです」。激しいレギュラー争いを勝ち抜き、自らの手で手繰り寄せた全国大会の出場機会。3年前に誓った「努力」は、間違いなくかたちになって表れている。 ただ、目指すところはさらに上だ。西原は秋に向け「これまで以上に練習します」と、シンプルかつ力強い意気込みを口にした。逆境を乗り越えたあの夏の“宮商ナイン”の一人として、何度でも全国の舞台へ帰ってくる。
川浪康太郎