友情・苦しみ・野望...インドの誇りと苦難を背負う「ラーマ」ラーム・チャランの大活躍「RRR」をヒット作に押し上げた何重もの魅力
S.S.ラージャマウリ監督によるインド映画「RRR」といえば、劇中歌「ナートゥ・ナートゥ」をはじめとしたダンスや人間離れしたアクションで、全世界でヒットした。もちろん、ダブル主人公のコムラム・ビームとラーマ・ラージュを演じたN・T・ラーマ・ラオ・ジュニアと、ラーム・チャランの活躍も欠かせない。ここでは特に、ラーマ役のラーム・チャランにフォーカスして魅力を語りたい。 【写真を見る】ラーム・チャランが大活躍!「RRR」 インド映画のスター・チランジーヴィを父として生まれ、2007年に映画デビューしたラーム・チャランは、「RRR」の時点で俳優としてすでに十二分のキャリアを持つ。イギリスに支配された1920年代のインドを舞台にした「RRR」で、彼が演じるのがインド人ながら植民地統治に協力する警官ラーマだ。 このラーマという人物、一筋縄ではいかない。イギリスに抵抗するインドの群衆を目の当たりにしても無表情でいる。そして暴徒を逮捕すべく群衆の中に単身飛び込み、殴られ、蹴られて傷だらけに。それでも不屈のラーマは同胞を捕縛して任務を全うする。 なぜそれほどまでにイギリスに協力するのか?ラーマもまた、イギリス軍に故郷の村を焼かれて父親を失っていた。父の遺志を継いで独立闘争に必要な武器を手に入れるべく、警察内部で出世を狙っていた。本当の思いを隠して、官憲の手先にならなければならないラーマの複雑な本音を、チャランのクールな表情が物語っている。それは、もう1人の主人公にして森で育ったゴーンド族の守護者ビーム(NTR Jr.)が、始終天真爛漫で人を疑わないのと対称的だ。 もとより「RRR」自体がインドのイギリスからの独立闘争の歴史、そしてインド神話をモチーフにした映画だ。イギリスとインドという単純な二項対立に描いてはいない。虐げられても抵抗を諦めなかった多くのインドの人々の思いが、ラーマに仮託されているかのようだ。 そんなラーマも列車事故からインド人の少年を助けたことがきっかけでビームと友情を育くんでいく。実はビームこそが、出世のためにラーマが追いかけるお尋ね者なのだが、それに気づかずにビームの前で良き兄貴でいる時のチャランの笑顔と、ビームの仲間ラッチュを拷問する時の冷酷な顔の使い分け、ビームこそが標的だと知ってしまった時の葛藤ぶりも見ごたえたっぷりで感情移入したくなる。 もちろんインド映画らしく、華々しくダンスやアクションでも魅せる。総督公邸に虎や鹿を率いて乗り込んできたビームに続いて、ラーマも馬車を駆って登場。しかしここでビームを逮捕してからは、友情に蓋をして冷酷な刑吏の顔になる。 劇中のチャランとNTR Jr.のビジュアルを見比べると、髪や口ひげを西洋人風に整えたチャランのラーマは、インド土着の自然と文化を象徴するビームに対して近代文明に染まった存在である。けれども、内には幼馴染のシータ(アーリヤー・バット)ら故郷の人々への思いを忘れておらず、わが身を省みずにビームを逃す計画を実行する。 そしてクライマックス。ラーマはイギリスの特別捜査官という、西洋文明で飾った仮面を完全に剥ぎ取り、インド神話に守られたヒーローとして覚醒する。ラーマという名前と、フィアンセのシータは、いずれもインド最高の古典「ラーマーヤナ」における英雄ラーマの物語をなぞっているし、劇中曲で歌われる「ラーマ ラグ家の末裔」とは、ラーマの子孫の活躍を描いた叙事詩ラグ・ヴァンシャに由来する。ラーマにはモデルとなる実在の革命家(アッルーリ・シータラーム・ラージュ)もいて、インドの歴史と古典には、チャラン自身も幼い頃から親しんできていた。本作のために鍛えた肉体も披露して、全身でもってこの大地と人のエネルギーをスクリーンに吹き込んだ。 かつて西洋文明の洗礼を受けながらも、抵抗を諦めなかったインドの数多の人々。イギリスに服従しつつも、自然の化身のようなビームに助けられ、人々を救うラーマの活躍には、この国の苦難の歴史も刻み込まれている。そんな、ラーマにまつわる物語性が、スぺクタキュラーなパフォーマンスシーンに加えて、全世界を魅了したのであろう。 ムービープラスでは、10月に本作「RRR」に加え、400年の時を越えた"運命の恋"を壮絶アクション満載で描くラーム・チャラン主演の「マガディーラ 勇者転生」も放送する。ぜひこの機会にラーム・チャランの熱演を見届けてほしい。 文=大宮高史
HOMINIS