個人だけで年約46兆円、なぜ米国民は桁外れに寄付するのか 善意と売名、微妙な線引き【ワシントン報告⑧寄付大国】
米国は世界に冠たる寄付大国だ。日本とは桁外れの規模で、一つの産業ともいえる。なぜこれほど寄付が集まるのか。他者を手助けするキリスト教の影響も背景にあるが、それだけではない。最近は富豪や慈善団体による巨額の寄付が目立ち、政治や世論への影響を懸念する声もある。善意と売名の線引きは時に微妙だ。(共同通信ワシントン支局長 堀越豊裕) ▽アマゾン創業者の夢 ワシントン中心部にはスミソニアン協会の博物館群が並ぶ。米国の懐の深さを示すかのように全て無料。協会予算の6割は連邦政府が賄うが、その他は信託収入や寄付収入で成り立っている。中でも、連邦議会議事堂とワシントン記念塔の間に立つ航空宇宙博物館は歴史的な航空機の数々を展示し、人気が高い。ここにインターネット通販大手アマゾン・コム創業者ベゾス氏が2年前、自分の名を冠した科学学習センターの建設含みで2億ドル(約290億円)を寄付した。 当時の声明は「全ての子供が可能性を秘め、ひらめきがその可能性を解き放つ。私にとってはそれが科学だったし、今回の寄付がそれに役立ってほしい」と強調した。寄付の表明から程なくして、ベゾス氏は自らが率いるブルーオリジン社の宇宙船で、子供のころからの夢だったという有人飛行を成功させた。
▽「道徳条項」欠く契約文書 センターは2026年にオープンする。世界指折りの富豪の社会還元は広く歓迎されたが、昨年表面化したスミソニアン側との契約文書が議論を呼んだ。大通りから見えるように「ベゾス・ラーニング・センター」の標識を取り付けることや、50年間は名称を変えないことがうたわれていた。 これには伏線がある。オピオイド(医療用麻薬)が深刻な社会問題となる中、製造した製薬会社パーデュー・ファーマへの批判が強まり、同社の所有者の名前を冠した公共施設が次々と名称を変更している。アマゾンに将来、同種の「道徳的な」問題が起きたらどうするかというわけだ。 ベゾス氏は有力紙ワシントン・ポストのオーナーでもあり、社会的な責任は一段と重い。ところが、そうした事態が起きた場合の対応を決めた道徳的条項が契約文書には含まれていなかった。 ▽慈善は「権力行使の一形態」 公共事業は税金なり寄付なりで賄う。税金よりも自分たちの寄付で地域社会を築こうとする自立の精神が米国にはある。NPOと寄贈者を結ぶ国際団体グローバルギビングのビクトリア・ブラナ最高経営責任者(CEO)は「米国においては政府がどこまで直接的に支援し、どれだけお金を投じるかはさまざまな意見がある。ニーズがかみ合っていない多くの部分でNPOがそのギャップを埋める役割を果たしてきた」と説明した。