オードリー・タン「私にとってAIは脅威ではない」…断言の根拠となった天才の思考法とは?
コロナ禍において国民全員にマスクを配布するシステムをわずか3日で構築し、世界のグローバル思想家100人にも選出された若き天才オードリー・タン。自身もトランスジェンダーであるタン氏が、日本の若者に向けて格差やジェンダー、労働の問題からの「解放」をわかりやすく語る『自由への手紙』(オードリー・タン著)より抜粋してお届けする。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 『自由への手紙』連載第31回 『「山に登ってみては?」…台湾の若き天才が「AI嫌い」な人々に山登りをオススメする納得の理由』より続く
「ハンコ問題」は、ハンコの話ではない
何事も多面的に考えると、問題がクリアになります。 たとえば日本では、「契約書や行政手続きの押印廃止」という流れが起きているという話題が、このインタビューでも出ました。 台湾も日本と同じ印鑑文化の国です。2016年の入閣にあたって、私は「大臣としてのアカウントをつくる際に必要だ」と言われたために、ハンコを用意しました。ところが2020年5月に再入閣した際、持参のハンコを使う場面がありませんでした。すっかりサインに変わっていたのです。 しかし、「ハンコ問題」とは、実はハンコではなく「紙の問題」です。 紙に押印しているからウェブ上でのやりとりが難しく、テレワークなどにそぐわないという視点も必要です。紙に代わるような「ハンコを押せるコンピュータ画面」にアップデートしたら、印鑑文化の新たな生かし方が見つかるかもしれません。 問題を考えるときは、たくさんの視座をもつといいでしょう。
自分の価値観を置く場所
AIについての話は労働力や労働の質が本題ではありません。すべては、私たちがどこに価値を置くかによるという議論だと思います。 もしも自主性や相互関係、共有の価値観などを大切にするのであれば、AIは単に補助的知能です。整然として正確に機能する、良いものだと見なされるでしょう。自分を助けてくれるのですから。 もしも何か特定のスキルセットこそ、自分と切り離せないものだと考えているなら、AIは脅威となるでしょう。 「この仕事のこの技術こそ、自分である」 それがプログラミングであれ、文章を書くことであれ、データ分析をすることであれ、何らかのスキルセットを重視している場合、ロボットは仕事を奪い去る敵となり、不安が生まれます。 私自身にスキルセットはありません。だから少しも心配していないのです。 どうしても心配になったら、のんびりと山に登りながら、考えてみるといいのではないでしょうか。 「自分の価値観をどこに置くか――それはスキルセットでいいのだろうか?」と。 『「移民」や「LGBTQ+」日本に迫りくる“多様性の波”…「多国籍国家」台湾から学ぶ』へ続く
語り)オードリー・タン