「谷中」が外国人の新たな観光地に 見直される下町の価値
「過去」と「現在」がつづく街
「谷中は、江戸時代の地図で歩けるんですよ」と、ともに案内してくれた同研究会の嶋根隆一さんが説明する。戊辰戦争で旧幕臣の彰義隊が逃げ、官軍と戦った際に立てこもった寺の山門には、銃痕が残る。木造の住宅が立ち並ぶ路地や街並みは、戦災と高度経済成長で激変し、断絶したかのような印象のある東京という街が、江戸時代、明治・大正・昭和時代と、人々の生活とともに続いてきた連続性を感じさせる。 椎原さんらの長年の努力の甲斐もあり、谷中の街は活気づいている。古い建物も改修し若者らが集まっている。銭湯を改修したギャラリー、オシャレなカフェになった古い下宿。古い建物を残しながら、街には過去ではなく、「今」が息づいている。
全国で人気広がる「街歩きイベント」
今回の「街歩きイベント」は、4つの「街歩き団体」が集まって開催された。窪地や谷などの土地の凸凹をこよなく愛する「東京スリバチ学会」、全国の「路地」を愛する「全国路地のまち連絡協議会」、ただひたすら行き止まりの路地を愛好する「ドンツキ協会」、そして、東京の平らな土地を愛する「東京マナイタ学会」だ。 「東京スリバチ学会」を主宰する皆川典久さんは、2003年から東京の街の高低差とそこから生まれる人々の生活をめぐる活動を始めたところ、全国各地から同じような趣味の参加者が集まり、いまや毎週末日本中を飛び回っている。今回のイベントにも、仙台・名古屋・新潟からも参加者が集まった。街の隠された地下の水路「暗渠(あんきょ)」をめぐり、坂道を登り、そこから生まれる人々の生活をめぐる。
「モノ」から「人々の生活」に関心が移る
「谷中」など、一見派手さのない下町をひたすら歩くことが、これほど人々の心をとらえ、海外からも注目されるのはなぜか。今回のイベントを準備した椎原さんは「人々の関心が、モノから、人の生活に移ってきたのではないでしょうか。路地や高低差に着目していても、そこにはそこに生きる人々の生活があります」と語る。 ゴールデンウイークを迎え、遠出をするのもいいかもしれないが、地元の街を歴史や文化や地形に着目して歩くと、新しい発見があるかもしれない。 (中野宏一/THE EAST TIMES)