元気なうちに終活を。還暦前に中古マンション購入した栄子さん。物を処分し、1DKに荷物を収めた
◆それなら買ったほうがいい 栄子さんがマンション購入を考えだしたのは50代半ば、4~5年前のことでした。父はすでに他界し、兄は仕事で国内を飛び回っています。高齢の母は実家の一戸建てで実質的に独り暮らし。20代で実家を出た栄子さんは、いくつかの転職を経て、いまは高齢者福祉施設で正職員として働いています。 介護福祉士という仕事柄、日常的に、高齢者に接してきました。そして同僚や先輩から、「高齢になったら家を貸してもらえない、貸してくれるとしても古くて汚いところしかない、新築のきれいな物件になんて住めない」と聞きました。 栄子さんがその頃住んでいた賃貸アパートは、1LDK、40平米強。駐車場込みで家賃は6万円弱。スーパーまで徒歩数分、コンビニまで徒歩1分と、生活は便利でした。 でも、そのアパートに、「ずっと住み続けられるんだろうか。ほかに貸してくれるところが見つかるんだろうか。働いて収入のある今はまだ貸してくれるけれど、年を取って年金生活になったら、借りられるのかしら」。栄子さんは、そう遠くない「定年後」を想像して、恐怖しました。 「それなら買ったほうがいいと思って。身の丈に合った物件を買って、身の丈にあった暮らしをしようと思って」 地方都市でも最近、東京の不動産好調の余波か、新築マンションがばんばん建っています。栄子さんの住む市でも新築がブームで、駅前に3000万円台からの新築マンションが数棟、建設中です。定年退職で東京からUターンする地元出身者が、東京より安いと購入するのだとか。 でも、栄子さんの狙いは、そうしたお高い新築ではありません。現金で買える中古マンションです。はなからローンは考えませんでした。中古でも、全面リフォーム済みの1000万円超の物件なんて対象外。こつこつ貯めてきた貯蓄で買える範囲、数百万円の予算で、1LDKを探しました。
◆地方都市あるある 年を取った後、地震などの災害時にエレベーターが使えなくなっても困らないように、階数は2階か3階を希望しました。築古物件を数百万円で購入して部分的にリフォームしようと、リフォーム代もある程度、覚悟していました。 老舗の不動産仲介業者に仲介を依頼し、物件が出るたび内見に行きました。メーンの駅前、繁華街の近く、官公庁街、古くからの町並みのエリア、……。住宅街にあるマンションも見ました。でもやっぱり、住宅街じゃ、免許証を返納したら生活できそうにありませんでした。 駅周辺でも、いまのマンションと逆側のエリアも見ました。でもスーパーや商店、クリニック、それに実家にも、(徒歩数分の差ではありますが)遠くなります。やっぱり、いま住んでいる辺りが魅力的でした。 10戸近く見ましたが、良い物件には出会えませんでした。「地方都市あるある」でしょうが、そもそもワンルームや1DK、1LDKといった単身者向けのマンションが、この市にはあまり建築されていないのです。 東京からの転勤族だって、単身赴任より家族帯同のほうが多く、マンションも家族持ち用の2LDK、3LDKが主流です。栄子さんの希望に合った1LDKは在庫が少なく、ゆえに比較的、強気の価格帯です。予算内の物件はなかなか市場に出てきません。 そのうち、1LDKだけでなく、1DKや2DKも見始めました。ある2DKの物件では、「2部屋をつなげて、1LDKにリフォームして住めばいいか」と思いました。ところが内見後に担当者が、「このマンション、自殺があったんです」とぽつり。当該住戸ではありませんが、と言われましたが、衝撃発言です。 栄子さんは内心、「きゃ~。イヤ~!! そんなの絶対買わないわよ~!」。動揺を見せないように、「そ~ですか~」と応えましたが、もちろん断りました。別の物件では、内見後、「ここにしようかなあ」と迷っているうちに、「売れてしまいました」と連絡が来ました。