【震災・原発事故13年】復興歩む請戸映画に 地域の誇り伝える 監督・板橋さん苕野神社の再建追う 16日お披露目
東日本大震災で津波被害を受けた福島県浪江町請戸地区の苕野(くさの)神社の再建を追ったドキュメンタリー映画が完成した。手がけたのは東京都の映画監督・板橋基之さん(48)。震災発生直前まで請戸を舞台にしたテレビ映像を撮っていたがお蔵入りになった。神社の再建計画を知り、地域の記憶や災害の教訓をつなごうと再びカメラを回した。新旧の映像を織り交ぜ、住民の思いをまとめた。16日、境内でお披露目する。全国公開や国際映画祭への出品も見据えており、「復興に歩む人たちの力強さを伝えたい」と意気込む。 東京都の映像制作会社で働いていた2010(平成22)年夏ごろから2011年2月ごろまで番組撮影のため請戸に通い、漁師の妻たちが地元の魚介類で地域おこしをする様子を収めた。縁もゆかりもない土地だったが住民の温かさに触れ、請戸を「第二の古里」と感じるようになった。 震災発生時は仙台市で番組の編集作業中だった。番組はそのまま放送されずに終わった。その後、フリーのディレクターに転身。初の映画監督作品「おべんとう」がモントリオール世界映画祭で上映されるなど実績を積み上げた。
「請戸の映像をまた撮りたい」。消えることのない思いを抱く中、苕野神社の再建計画を伝え聞いた。「撮るなら今だ」。未曽有の大災害に見舞われ、一時は絶望しながら再起する人間の強さを「神社の再建」を通じて描けば、地域の誇りや復興の現状を伝える一助になると考えた。 町の許可を得て撮影を始めた。心のよりどころを取り戻そうと奮闘する住民の話を聞き、伝統芸能を後世につなぐ関係者の心情にも迫った。新築の神社が披露された今年2月まで約1年間撮り続け、震災前に撮りためた請戸の様子も盛り込んで1時間53分の長編作品に仕上げた。 全国公開するため各地の映画館と交渉している。国内外の映画祭にも出品する考え。氏子らは地元の姿が作品を通じて広く発信されるのを願う。映画に出演している氏子総代の五十嵐光雄さん(77)は「請戸は災害危険区域となり古里に帰還できなくなったが、確かな人の営みがあった。その事実が伝わってほしい」と期待する。