「プレジデントは愛人です」という俳優の寺島 進さん、43歳で買って17年を共にした愛車が工場入り 動かなくなっても持ち続けるという言葉がジンとくる
四角いデザインのクルマが好き!
クルマ好きのゲストを迎え、「これまでに出会ったクルマの中で、人生を変えるような衝撃をもたらしてくれた1台」を聞くシリーズ、「わが人生のクルマのクルマ」。今回登場していただくのは、映画、テレビドラマ、CMなどで活躍する俳優、寺島 進さん。ハコ型のクルマが好きだという寺島さんの愛車は43歳で買った日産プレジデント。17年間を共にした愛車とは離れがたいと言う。 【写真6枚】寺島進さんが43歳のときに買って17年間持ち続けるプレジデント そしてハコスカは憧れのクルマだった! ◆10代のときに憧れていたクルマ 「タバコ、いい?」 1972年式日産スカイライン2000GTXの前に立った寺島進さんは言った。ボンネットの上にタバコとライターを置き、1本を口に咥える。いやあ、めちゃくちゃカッコイイ。ヴィンテージ感のある出で立ちとハコスカ、まるで撮影現場は昭和にタイムスリップしたみたいだ。 寺島さんが醸し出すダンディズムはとてもエッジが立っているけれど、どこか寛容で温かい。粋な江戸前の風情を感じる。 私の頭の中に“この主人公は群れることを嫌い、権力に対しても一歩も引かない一匹狼だが、子供と野良猫にはめちゃくちゃ優しい”というキャラクターが浮かんだ。ワンポーズでストーリーを想起させる寺島さんに再び感心した。 寺島さんは東京・深川で生まれた。 「実家は畳屋でね、クルマと言えばリアカーかトラックだった。どこへ移動するのもトラックだった。夏にオヤジがオレを乗せて晴海のプールに連れて行ってくれた。道中、トラックから見るハコ型のセダンに憧れた。こっちは後席がないからね。後席のある乗用車はいいなあって」 撮影のために準備したハコスカは寺島さんが10代のときに憧れていたクルマである。 「思春期の頃、初めて見たんだけどすごくカッコイイと思った。一目惚れに近いね。こういう四角いデザインのクルマが好きなんだよね。いま見てもすごくいい。こんなに低かったんだっけ。座ってもいい?」 寺島さんは子供のように目を輝かせた。 「マニュアルと半クラッチ、懐かしい! 教習所でサイドブレーキを引き、坂道発進をやったのを思い出した。オレは得意だったよ(笑)。こういう人が動かしている感じはいいよね、味があって」 寺島さんは満面の笑みで、撮影のためにハコスカを動かした。 寺島さんがクルマの免許を取ったのは18歳のときである。 「オヤジの仕事を子供の頃から手伝っていたから、教習所代はオヤジが出してくれた。オレが運転できればオヤジも助かるしね」 寺島さんが持つ江戸前ダンディズムのルーツはお父さんなのかもしれない。やかんの水を口に含み、ぷーっと霧のように吐く職人姿を横で見ている寺島少年の姿が頭に浮かんだ。 ◆ホンダXLXで四国へ 高校を卒業後、俳優を目指した寺島さんは殺陣やスタントを学ぶために剣友会に所属した。 「師匠の運転手をやった。師匠が揺れないように丁寧に運転しなさいって言われてね。でも、若いから幅寄せなんかされると窓を開けて怒鳴っちゃって。先輩に怒られたなあ。オマエ、師匠乗せてんのに何やってんだって」 20代では2輪にも乗っていた。 「ホンダXLX250に長く乗ってました。四国にいる先輩のところまでひとり旅をしたこともある。寝袋を荷台に括り付けてね。瀬戸大橋を走ったときが最高に気持ち良かった。景色はいいし。あと、バイクは漁港に近づくと潮の香りがしたりしていいよね」 最近、走って気持ちいいと思っているのは琵琶湖の湖畔ロードだ。 「関西にアメ車好きの友達がいるんですよ。彼がシボレー・コルベット(C5)を持っていて、向こうへ行ったときは乗せてもらってるんです。あのコルベットで琵琶湖沿いの道を走るとすごく気持ちいいんですよ」 ◆日産プレジデント では、寺島さん本人の愛車は? 「日産プレジデント(JG50型)。いま工場に入ってるんだよね。パーツがなくて、もしかしたら直らないかもしれない」 寺島さんがこれからを思いあぐねている愛車、日産プレジデントは43歳のときに初めて買ったマイカーだという。 「40歳前ぐらいからテレビドラマの仕事が増えて、顔が広く知られるようになったんです。電車移動が難しくなってきてね。そうかあ、クルマかあと思うようになった。ロケ先でも行き交うクルマを見るようになって、あれじゃないな、これも違うと。そんなとき目の前をプレジデントが通ってね。これだ! と思った」 日本車をキャッシュで買うというのは最初から決めていたのだという。 「外車を見栄張ってローン組んで買うっていうのがね、自分のなかでなんか違うよなというのがあるんですよ。知り合いの人にパール・ホワイトの1台を見せてもらって、もうこれしかないと思いました」 自分のクルマを手にした寺島さん、ロケ地へ運転していくのが楽しかったという。 「ずっと乗っていると自分とリンクしてくるじゃない。プレジデントが来たら、寺島来たなみたいに。そういう風に自分の代名詞みたいになっていった。最初はホイール変えたりとか、いろいろやったんだけど、最終的にはノーマルに戻るね。やっぱりそっちに落ち着く。仕事以外では知り合いの結婚式のために福島へ行ったり、いまの女房と西伊豆に旅行に行ったりした。ナビがなくて地図でね(笑)。ああやって地図を見ながら運転すると道を覚えるね。ナビだと道を覚えなくなる」 いまのクルマは前車を自動で追走するアクティブ・クルーズ・コントロールや自動運転なども備えていることを伝えると、寺島さんはちょっと顔を曇らせた。 「ハンドルを握っている感覚が薄くなるっていうのはどうなんだろうね。クルマだけじゃないけど、いまは全部コンピューターでしょ。世の中が無機質になってる。手間暇かかる部分があってもいいと思うけどね」 寺島さんにとってクルマとは何ですか? 「オレにとってプレジデントとは?ってことかもしれないけど、愛人だと思っている。昔、年上の女性に“クルマの運転と女性の扱いは同じだからね”って教わった。雑に扱うと雑に返ってくるし、優しく扱えばちゃんと応えてくれる」 寺島さんはもしプレジデントが動かなくなったら、カバーをかけて保管するつもりだそうだ。 「スクラップで潰されるっていうのもね。たまにカバーを外して会うっていうのがいいかなって」 江戸前の寛容、極まれり。 文=荒井寿彦(ENGINE編集部) 写真=筒井義昭 スタイリング=今井聖子 ヘアメイク=中山直丈 寺島 進 1963年東京生まれ。高校を卒業後、三船プロの俳優養成所・三船芸術学院に入学。同学院卒業後、剣友会に入門。1986年に松田優作監督の映画『ア・ホーマンス』に出演したのを皮切りに、北野武監督をはじめ、是枝裕和監督、SABU監督、三谷幸喜監督などの作品に多数出演。テレビドラマでは『駐在刑事』『逃亡者 木島丈一郎』『アンフェア』『ドクター彦次郎』など数多くの作品に出演。1996年、篠崎誠監督の『おかえり』で東スポ映画大賞新人賞を受賞。2006年、第29回日本アカデミー賞優秀助演男優賞(『交渉人 真下正義』)などに輝き、現在も映画、テレビドラマ、CMなどで活躍中。 (ENGINE2024年8月号)
ENGINE編集部