電力自由化は国のエネルギー・環境政策の目標達成に貢献できる?
今後1kWh当たりの買い取り費用は減額されるものと思われますが、買い取り期間は10年から20年ですから累積の導入量が増えれば買い取り費用、電気料金は当分の間上昇します。電気料金は震災後、燃料購入量の増加もあり、家庭用で25%、産業用で38%上昇しています(図3)。これ以上の上昇を抑制しつつ再エネ導入を促進するため次のような計算が行われました。 再エネ、原子力発電を導入すると化石燃料の消費をその分削減可能です。一方、再エネの固定価格買い取り額の負担が増えます。13年度の電力業界の燃料代の負担額は9.2兆円、再エネの買い取り負担額は0.5兆円でした。電気料金を上昇させないため燃料費削減分の範囲内に再エネの買い取り額を抑えると、燃料費削減分3.9兆円、再エネ買い取り負担額3.7兆円から4兆円が料金上昇を抑制しつつ割り当て可能な数字となり、再エネ比率22%-24%、原子力22%-20%、合わせて44%の算出につながりました。 将来の燃料費を見通すことはできないので一定の仮定のもとでの計算結果ですが、再エネの負担額は来年度の時点ですでに2.3兆円に達します。最大4兆円の負担で30年に22%から24%の再エネを導入するのはすでに難しくなっているように思われます。
電力市場の自由化は何が問題?
電力市場を自由化する中で、30年の政府の目標値は事業者によりどのように達成されるのでしょうか。発電設備の建設はいままで総括原価主義により行われていました。ピーク需要に対応するために稼働率が低くなる設備を建設しても、その費用は電気料金で回収することが認められていました。自由化されると発電設備建設の費用を回収できる保証はなくなります。将来の電気料金、つまり売上、と費用のかなりの部分を占める燃料費の予測を行うこともできません。 売上も費用も見通しがつかない中で投資を行う事業者は出てこなくなります。投資が行われるのは買い取り制度により電気料金、収入が保証される再エネ設備だけになります。いま、ガス会社が天然ガスを燃料とした火力発電所を、あるいは石油会社が製油所の残渣(ざんさ)を利用した石油火力発電所の建設を検討しています。ところが、一つの燃料に依存する発電所がいつも競争力を持つとは限りません。いままでは、歴史的に原油とLNG(液化天然ガス)価格は同じような動きをしてきました。石炭は化石燃料の中では最も安い燃料でした。 しかし、化石燃料の価格がこれからも同様の傾向を示すかは分かりません。原油価格に基づいて決められていたLNGの価格決定方式も見直されています。二酸化炭素排出量の多い石炭は、炭素税が課せられれば、一度に競争力を失うかも分かりません。前回の英国の事例でみたように、不透明な要素が多い電力市場では、発電設備に投資する企業がなくなっていきます。その結果、設備が老朽化し閉鎖されても代わりの設備が建設されなくなっていきます。