ダークでオカルトな西部劇 『Kill The Crows』は超難しいのに、「もう一回だけ」が止まらないツインスティックシューター【おすすめゲームレビュー】
文:NeverAwakeMan ファミ通.comの編集者&ライターが年末年始のおすすめゲームをひたすら紹介。ライターのNeverAwakeManがおすすめするタイトルは『Kill The Crows』です。 【記事の画像(10枚)】を見る 【こういう人におすすめ】 ガンスリンガーの気分に浸りたい ミニマルにアクションゲームを楽しみたい 一撃必殺の緊張感を味わいたい NeverAwakeManのおすすめゲーム 『Kill The Crows』 プラットフォーム: PC(Steam) 発売日:2023年8月21日発売 発売元:5minlab 開発元:5minlab ジャンル:アクション 価格:550円[税込] 対象年齢:― いまは廃墟と化した、西部のとある町。ペスト医師にも似たカラス型のマスクを着けた男が銃弾にその身を貫かれ、血飛沫をあげながら酒場の外へとふっとばされた。 続いて、カラスマスクの男を撃った本人が酒場から転がり出てきた。無骨なリボルバーを携えたその女の名はイザベラ。流浪のガンスリンガーだ。酒場を出た正面にはカラスマスクの一味がさらに6人、イザベラを待ち構えていた。完全包囲。もはや絶体絶命か? 否。 敵は6人。弾丸は6発。ひとりに一発。それで足りる。 一呼吸置くと、イザベラは目にも止まらぬ速さでリボルバーを連射し、6人のカラスを即座に始末した。だが連中はまだまだやってくるだろう。いくらでも、いつまでも。ならば殺し続けるしかない。自分がカラスに殺される、その瞬間まで。 『Kill The Crows』は、こういうゲームだ。 暗黒西部でつかまえて こういうゲームだ……などと言われても、こんなあらすじだけではなんのこっちゃわからないと思うので改めて紹介しよう。 『Kill The Crows』は、Steamで配信されている見下ろし型ツインスティックシューターだ。世界観やストーリーはほとんど語られないものの、全体的な雰囲気はダークでオカルトな西部劇、いわゆるウィアードウェスト風のものになっている。敵はカラスの仮面をつけた邪教の信徒で、主人公のイザベラはなんらかの因縁で彼らに追われて廃墟の町に流れ着いたらしい。 プレイヤーに課せられた目的は究極にシンプル。「ひとりでも多くのカラスを殺して生き延びろ」、ただそれだけだ。 ゲームの目的がシンプルなら、やることもシンプルだ。移動する、敵を狙う、撃つ、リロードする。敵の攻撃を喰らいそうになったら、転がって避ける。100キルごとにボスが出現するので、当然ながらそいつも殺す。次第に激しくなっていく敵の攻勢をなんとか捌きながらただひたすらにこれをくり返す。 『Kill The Crows』では、レベリングなどという小賢しい概念はない。リトライしたところで、己の腕前以外にアップグレードできるものはほとんどない。気休めになるかはわからないが、リロードは無限にできるので弾切れで詰むことだけはない。本当にストイックで、本当に難しいゲームだ。 この淡々としたゲームプレイに抜群の手触りのよさを与えてくれるのが、サウンドデザインだ。文章だけではとても伝えきれないのがもどかしいくらい、本作の効果音はすばらしい。一撃必殺のリボルバーの威力を感じる重い発砲音に、シリンダーから弾き出された薬莢が転がる甲高い音。どの効果音をとっても耳に心地よく、ひとつひとつのアクションにたしかな満足感とリアリティがもたらされている。シンプルきわまりないプレイループの中でこれらの効果音をずっと聴き続けていると、なんだか奇妙な陶酔感に包まれてくる。 Just One More Shot イザベラは凄腕のガンスリンガーなので、雑魚敵どころかボスすらたった一発の銃弾で仕留められる。一方で、イザベラも敵の一撃で簡単に殺されてしまう。すなわち、ワンショットキルかつワンショットデス。乾いた色合いのドット絵に違わない、殺伐としたゲームシステムが本作の魅力だ。 このシステム上、当然ながら死ぬときは本当にあっけなく死んでしまう。うっかり敵がいるのを見落としていたとか、うっかり敵の射線に出てしまったとか、うっかりリロードを忘れていたとか、そんな些細な理由でプレイヤーの努力はあっさりと台無しになってしまう。なんとも悔しい瞬間だ。 ここで、リザルト画面に表示されたタイマーを見てみよう。 きっと驚くことだろう。まるで精神と時の部屋に入ったかのように、体感時間と実時間がズレている。5分ほど戦っていたつもりが、たったの1、2分だ。『Kill The Crows』を遊ぶと、ワンショットデスの異様なスリルにより時間が何倍にも圧縮されて感じられる。なので、近ごろ流行りのタイムパフォーマンスという観点で言えば本作はすさまじく優秀な部類に入る。 一撃で殺す爽快感と、一撃で死ぬ緊張感。その両方がほんの数分間に凝縮されたゲームプレイが強烈な中毒性を生み、たとえ死んでも失うのはほんの数分だけ。そうして気づいたころには、「もう一回だけ」のループが終わらない。とてつもなく難しいにも関わらず、『Kill The Crows』はプレイを諦めてしまうよりもリトライするほうがたやすいゲームなのだ。 生きるためにガンスリンガーになれ 自分も敵も一撃で死ぬゲームと言えば、『ホットラインマイアミ』や『Katana Zero』などが挙げられる。 こうした有名どころと比べて『Kill The Crows』がユニークなのは、基本的にリボルバーしか使えないという点だ。規定のキル数や命中率といったタスクをこなすことでほかの武器を解放できるとはいえ、結局のところそれもリボルバーなので、ごく一部の例外を除いて装弾数は多くて8発程度と心もとない。雑に撃ちまくっているとすぐに無用なリロードを挟むことになり、無用なリロードは無防備な時間を生む。そうした迂闊なプレイの先には、お決まりの死が待ち受けているだろう。 したがって、このゲームでは敵を撃つ速さと正確さがなによりモノをいう。ワンショット・ワンキルのために集中力を高めていくプロセスは、きわめてガンスリンガー的な体験といえる。 このガンスリンガー気分をさらに高めてくれるのが、敵を倒すことで溜まるゲージを消費して放つ必殺技“ショーダウン”だ。 武器と同じくショーダウンにもいくつかのバリエーションがあるが、基本的には『レッド・デッド・リデンプション』のデッドアイみたいなものと言えば、わかる人にはわかるだろう。スローモーション中に敵をロックオンし、スローモーションの終わりと同時に連射していっぺんに倒す、カッコいいアレだ。スローモーションと同時に低く響く「ドゥーム……」という効果音と暗転演出が、ショーダウンのスタイリッシュさを高めてくれる。 このショーダウンはただカッコいいだけでなく、カラスたちから生き延びるうえでもなくてはならない存在だ。 まず、残弾ゼロでも使えるという点からして強い。大勢の敵に囲まれてリロードが間に合わないような状況を打破するのに、これほど頼もしいことはないだろう。盾を持った厄介な敵もショーダウンなら正面から貫いて倒せるし、発動中の無敵時間を利用して敵の攻撃を強引に避けることもできる。その上、ほとんどのショーダウンには発動後に弾丸をすべてリロードするというオマケまでついてくる。必殺技を使ったあとのフォローまで至れり尽くせりというわけだ。 これほど豪華な性能をしているにも関わらず、ショーダウンは燃費もいい。敵を10人倒すか倒さないかのあいだにゲージが溜まって、再び使えるようになる。STGにおけるボムやFPSにおけるUltなどと比べるとかなり気軽にぶっぱなせるので、すこぶる爽快だ。 もちろん、これは『Kill The Crows』が「超性能の必殺技を気軽にぶっぱなしまくらないとまともにクリアーできない」くらいタフなゲームであるということも同時に意味しているわけだが……。 値段設定までストイック 「避けて撃つ」という、シューターの真髄とも言えるおもしろさをミニマルにまとめきった『Kill The Crows』。ゲームそのものだけでなく、その値段設定も魅力的だ。なにしろ定価で550円、セールのときなら500円を切ることもある。たったのワンコインだ。ステージはひとつだけしかなく、ミスしなければ10分程度でクリアーできるとだけ書けば妥当に思えるかもしれないが、得られるアクションゲーム体験は値段とは比べ物にならないくらい濃密で、やみつきになる。 ひたすらにリトライをくり返すこのゲームは、アクションゲーマーにとっての天国であり、地獄でもある。 ハードコアなアクションゲームに飢えたあなた。自分のプレイスキルを限界まで磨くことに無上の喜びを感じるあなた。ガンスリンガーに憧れるあなた。『Kill The Crows』は決してあなたのことを甘やかしたりはしないが、決してガッカリさせたりもしない。ワンコインで楽しめる「もう一度だけ」のループに身をゆだねて、この冬をストイックに楽しもう。
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