<リオ五輪>金メダル 川井がかなえた五輪競技でなかった時代の母の無念
リオの舞台で、初めての世界一と初めての五輪金メダルを手にした女子レスリング63kg級の川井梨紗子(21、至学館大)は、試合が終わるとすぐ「63kg級では最初で最後の五輪と決めていたので、金メダルをとれて嬉しい。次は58kg級で伊調馨さんを破ります」と宣言した。本来の階級は58kg。去年の春頃、栄和人監督に58kg級から63kg級へ階級変更するように薦められ、悩みに悩んで決めた道だった。 伊調を追いかけ、追い抜くために頑張ってきた。 先輩を倒して、納得のいくかたちで五輪代表になりたかった。でも、いまの自分の実力では、代表選考で確実に伊調に勝てるかわからない。気持ちは階級変更することに傾きかけていたが、潔くないともとられかねない選択肢を選びには、勇気が必要だった。女子レスリング草創期に日本代表として1989年の世界選手権に出場したこともある、母の初江さんから「梨紗子の思うようにやってごらん」と背中を押してもらい、ようやく決心がついて63kg級で世界選手権に出場し、2位となって五輪出場を決めた。 「今でも、あきらめたとか、馨さんから逃げたと言われることがあります。そうじゃないと、思い出すと悔しいですが、それがあったからこそ、今の自分があると思います。いつも支えてくれた(母の)初江どんには感謝です」 いまは伊調にライバルとしての照準をあてている川井だが、4年前はその相手を吉田沙保里に定めていた。周囲は、もともと五輪で実施されない51kg級を主戦場としていた川井に、51kg級で世界一になってからの階級変更をすすめていたが、反対を押し切り、2012年12月の全日本選手権には吉田の階級へ変更して出場した。「先輩超え」は今も果たされないままだが、次の五輪へ向けての代表争いでは、確実に追い抜くつもりでいる。 元学生王者の父・孝人さんと母・初江さんはともにレスリング選手だったが、他の元選手によくみられるような、気づけばレスリングをしていたというような子育て方針ではなかった。なんとなく連れて行ったレスリング大会で、優勝した子がかけている金メダルが欲しくなり、小学校2年生に金沢ジュニアクラブで練習を始めた。母が教えたのは「先輩でも遠慮なく戦って勝たなければチャンピオンにはなれない」こと。厳しい指導 に親子げんかはしょっちゅうだったが、この教えだけは貫き通していた。