なぜアマゾンは「アレクサ」を法人向けに売り込むのか
米アマゾンの音声認識AI（人工知能）アレクサの利用が広がっている。主に個人向けに音楽再生や家電操作に利用されてきたが、昨年12月に日本で法人向けサービスを開始し、ホテルや介護施設、マンション、自治体などでビジネスに活用されている。狙いをAmazon Alexaインターナショナル技術本部本部長の福与直也氏に聞いた。【毎日新聞経済プレミア・山口敦雄】 ◇創業者のベゾス氏が考案 アマゾンが日本で展開する法人向けサービスは「アレクサ・スマート・プロパティー」。個人向けに市販されているAIスピーカー端末「エコー」を使用し、専用端末を導入するよりも安価にシステムを構築できる。福与氏は「エコーに話しかけるだけで簡単に操作できるため利便性が高い。ホテルや介護施設のスタッフの業務を軽減し、人手不足の解消が期待される」とメリットを語る。 法人向けサービスは、ホテルでの採用が相次いでいる。ホテル三日月（本社・千葉県木更津市）は昨年12月、同市の「龍宮城スパホテル三日月」の全室とフロントに計480台のエコー端末を導入した。宿泊客が話しかけるだけで、館内や地域、天気や時刻、ニュースなどの情報を得られるほか、フロントと客室間の通話にも利用できる。 東急ホテルズ＆リゾーツも、札幌市の「サッポロストリームホテル」の一部の客室に採用した。 福与氏によると、もともとアレクサの法人向けサービスはアマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏がホテルの客室での活用を考案したのが始まりだという。 ベゾス氏がラスベガスのリゾートホテル「ウィン・ラスベガス」に泊まった時にエコーを客室で使ってはどうかとホテル側に提案。エコーを客室に導入すれば照明、音楽、テレビなどを声で操作できたり、館内情報をエコーの画面上で確認したり、ホテルのスタッフのサービスをエコー端末で受けたりすることが可能だ。この提案を受けて「ウィン・ラスベガス」が2016年12月に約4700室ある全ての客室で導入した。 ◇コスト面でメリット 個人向けサービスとの大きな違いは、アマゾンの個人アカウントを使用しないため、個人情報は取得しないことだ。アマゾンはNTTデータ、NTTビジネスソリューションズ、新興企業トラッドフィット（本社・東京）などのソリューション・プロバイダー事業者と組んでサービスを展開しており、企業や自治体などの顧客はこうした事業者を通じてシステムを一括導入し、カスタマイズして管理している。 介護施設では昨年12月から「ニチイホーム南大井」（東京都品川区）でアレクサを採用した。福与氏は「スマートフォンが使えない高齢者でも音声で操作できるので、身近にITに接することができる。入居者の95％が利用しており、予想以上に使っていただいている。実際に使ってみて便利だという入居者の声をいただいている」と話す。 ◇アメリカでは病院で活用 課題としては現在、音楽ネット配信サービス「アマゾンミュージック」などの個人向けサービスの一部が利用できないことだ。福与氏は「いろいろな音楽を聴きたいという要望は聞いている。正確な時期は言えないが、音楽配信サービスが将来的に聴けるように社内で検討している」という。 地方自治体では熊本市が試験的にアレクサを導入した。民生委員には悪天候時や人手不足などにより高齢者宅への訪問が困難になる課題があるが、高齢者の家と民生委員の自宅にエコーを設置し、ビデオ通話で相談を受けるなど、民生委員の業務負担の軽減が期待されている。 先行して法人向けサービスを行うアメリカでは病院での活用が進んでいる。 アメリカではエコーの画面で通話する機能があり、病院内で電話の代わりにアレクサを使い通話費用の削減につながっているという。福与氏は「まだ日本の法人向けサービスは始まったばかりで、アメリカのサービスの水準に追いつき、追い越せるようにしたい」という。
