「社長が不倫→即辞任」は日本だけ…アマゾンやテスラのCEOが「不倫発覚」でも解任されない理由
■ウエルシア社長が「不適切行為」で辞任 4月17日、ドラッグストア大手のウエルシアホールディングス(HD)は、松本忠久社長(65)の辞任を発表した。「私生活で不適正な行為があり、会社の信用を傷つける」ためという。業界2位のツルハホールディングとの統合へと動き出していた矢先、メディアで報道される前の発表であっただけに、まさに「寝耳に水」の出来事だった。 【写真】2015年テスラモーターズ年次総会でのマスク氏 報道では、「不適切な行為」は不倫ではないかと目されていた。筆者は報道を目にした際に、「完全にプライベートとは言えない行為であったか、不倫以外の不祥事のあるのではないか?」と疑いを持った。というのも、不倫の事実が発覚しただけで、経営者が辞任するケースは珍しいからだ。 その後の「週刊新潮」の報道では、松本氏はウエルシアの取引先の会社の女性と不倫関係にあり、かつ会社が賃料の一部を負担する“社宅”に女性を連れ込んでいたとされている。 そうした理由であれば、辞任はやむを得ない。完全にプライベートでの行為とは言えず、「公私混同」と見なさざるを得ないからだ。 不倫に限らず、プライベートな行為によって、経営者が辞任するかしないかは、下記によって決まってくる。 ---------- 1.行為の深刻度 2.経営者が所属する企業や業界の 3.業務との関係性(完全にプライベートな行為と言えるか否か) ---------- 犯罪行為、つまり刑法に触れる行為を行った場合は、当然ながら辞任に追い込まれることが多い。窃盗、傷害、痴漢行為、脅迫行為などがそれにあたる。しかしながら、不倫はそうした行為には当たらない。 「ただの不倫ではないか」と言うと、「配偶者や子供を傷つけたのではないか」と憤る人も少なからずいる。しかし、あくまでも不倫は家族の問題であって、他に被害者がいるわけでもない。会社の経営に大きな支障が出るわけでもない。
■同じ不倫でも「公私混同」かどうかで処分は変わる 育児や教育、あるいはブライダルに関係する企業や業界であれば、不倫は企業のイメージと信用の低下につながり、それが業績に影響する可能性もある。こうした場合は、辞任せざるを得なくなるのは理解できる。 さらに、同じ不倫でも完全に私的な行為なのか否かで、事情は異なってくる。ウエルシアの松本氏の場合は、取引先の女性であったこと、“社宅”を利用していたと報道されており、これが事実であれば「公私混同」と見られるし、相手の女性が所属する企業への利益誘導がはかられる懸念もある。企業経営にも悪影響を及ぼしかねないし、すでにそうしたことが行われているのではないかという疑いも生じてしまう。 辞任をしなければ、メディアからも、ステークホルダー(利害関係者)からも、厳しい目で見られ、松本氏個人だけでなく、企業のイメージダウンにもつながる。 ■テスラやアマゾンのCEOは辞任していない 企業コンプライアンスに厳しい欧米においても、完全に私的な行為であれば、不倫によって経営者が辞任に追い込まれることはない。 テスラの創業者イーロン・マスクは、Googleの共同創設者であるセルゲイ・ブリンの妻と不倫をしていたと報道され、大きなスキャンダルとなったが、経営者としての進退を問われることはなかった。アマゾン創業者のジェフ・ベゾスも不倫が発覚し、同じく大きなスキャンダルとなったが、やはり辞任はしていない。 両氏ともに創業者であり、大株主でもあるという特殊事情があるように思われるかもしれないが、私的な不倫に対して欧米では概して寛容である。 一方で、経営者と従業員との間の社内恋愛はご法度で、インテルやマクドナルドなどでは、部下と関係を持ったCEOが、それを理由に解任されている。「公」と「私」は切り分けて考えるが、公私が区別できない行為については、厳しく罰せられるのが通例である。