佐久間PはDMM TVで何をしたいのか?『インシデンツ2』の魅力 90年代映画を思わせる痛快さと狙い
ガイ・リッチーを思わせる緻密な脚本
新作を見ながら最初に思い浮かべたのは、イギリスの映画監督ガイ・リッチーの初期作品だった。 ガイ・リッチーは、1998年に公開された『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』で注目を浴び、続いて2000年(日本では2001年)に公開された『スナッチ』でも高い評価を受けた。いずれもギャングやマフィア、強盗団など悪人の世界をベースに、一見関係ないと思われるシーンが後になって結びつく緻密な脚本で構成された群像劇だ。 インシデンツ2でも、まずは強盗団5人の背景が描かれたうえ、銀行強盗の決行中に“どう仲間を裏切るか”というそれぞれの思惑に焦点を当てつつ、そうはうまくいかない現実とのギャップによって滑稽さをあぶり出していく。こうした細やかな見せ方が、前述のガイ・リッチーの映画に通じている。 1994年公開のアメリカ映画『パルプ・フィクション』(クエンティン・タランティーノ監督)でも、時系列を無視して殺し屋の淡々とした日常を描いている。1990年代はアメリカとソビエト連邦の冷戦終結後であり、世界的な緊張状態が一時的に緩和した“奇妙な安息”を感じさせる時代でもあった。 だからこそ、それまでになかった「淡々とした悪人側の日常」「時系列にとらわれない群像の世界」を描く作品が生まれやすかったのかもしれない。インシデンツの脚本を担当するオークラ氏、プロデューサー・佐久間氏は、これらの作品を10代後半から20代の多感な時期に観ていたことが想像される。 シーズン2がラストまで勢いを失っていないのは、2人がガイ・リッチーやタランティーノに感化された世代だったことも関係しているのではないだろうか。
はじめから4話、5話でびっくりさせよう
前作との具体的な違いについても触れておきたい。新作はシーズン1と同様にコントブロックも挿入されているが、第4話から最終話まで強盗団と反社会組織とのストーリーにスポットを当てている点で大きく異なる。 これは、そもそものコンセプトが違うためだろう。前作は、お笑い番組(もしくはコントグループ)と国家という“構造”によって展開していった。その大筋はこうだ。独裁者フスキ・ゼンに支配された架空の独立国家「NEPPON」。コントグループ「LOL」は、そんな国でお笑い番組を作り続けている。 ある日の撮影中、LOLのメンバーがNEPPON国の軍隊に狙撃され現場は騒然に。国の思想に反するコントは作ってはいけない。そう警告されたLOLは、笑いと国を守るためどう立ち向かっていくのか……というものだった。 つまり、シーズン1は何度もコントを披露する必然性があるのだ。この作風についてプロデューサーの佐久間氏に尋ねると、「体制に対する笑いによる風刺、という劇中劇だったので、後で見て二重の意味になるように意識しました」と語ってくれた。 『空飛ぶモンティ・パイソン』(1969年から1974年まで放送されていたイギリスのコメディー番組)を思わせるグロテスクなアニメーションを使用しているのも、国営放送のBBC で王族や政治家をおちょくるネタを披露したコメディーグループ「モンティ・パイソン」をベースに企画が練られていったからだろう。 一方、シーズン2はメインキャストや脇役たちの日常でコントブロックを作っている。そこから銀行強盗の決行を機に、一気にストーリーが走り出す展開が見ていて痛快だ。「はじめから4話、5話でびっくりさせようと思っていた」と語る佐久間氏の狙いが見事に的中したと言えるだろう。