新年の相場予測、当たらないことが多いのはなぜ?
アンカリング効果とは
これは一体どうしてそうなるのでしょうか? よく言われるのは、「あれはアナリストの本音ではない」ということです。多くのアナリストやエコノミストは金融機関に所属しているため、どうしても組織の意向を無視することができず、ドラスチックな予想を出すことが難しいということです。確かにそういう面はあるかもしれませんが、私はもっと別なところに理由があると思います。 それは行動経済学でいう「アンカリング効果」です。「アンカリング」というのは船がいかりを降ろすことを指しますが、要するに“与えられた数字に影響を受けてしまう”ことを言います。よく例に出されるのが「国連加盟国に占めるアフリカ諸国の割合は?」という問題です。回答してくれる人たちを二つのグループに分け、質問をする前にルーレットを回します。一つのグループには65という目が出ました。もう一つのグループには10という目が出ました。ここで前述の国連加盟国に占めるアフリカ諸国の割合は?」という質問をするのです。すると65の目が出たグループの答えの平均は45%でした。 ところがもう一方の10の目が出たグループの答えの平均は25%だったのです。言うまでもなく「国連加盟国に占めるアフリカ諸国の割合」とルーレットの出た数字は何の関係もありません。ところがそれを見せられたことによってその数字がアンカー(いかり)になってしまい、その後の答えにも影響が出てしまうのです。
だから無難な結果になってしまう“予測”
エコノミストやストラテジストの予想に何の根拠もないことはありませんが、要するに現時点での水準=数字を基準=アンカーとして考えるために、今後のトレンドも予想レンジもそれに影響を受けてしまうということが起きるのだと思います。 その証拠に株価が上がり始めたり、為替が円安方向に動き始めたりすると、コメントの都度それに合わせて予想レンジが少しずつ切り上がっていく傾向が見て取れます。上がろうが下がろうが関係なく年初からの予想を一貫して変えないという人はごく少数派です。 もちろん予測する彼らだって人間です。いくら自信を持って予測を出していても当初の想定とは違うスピードで動き始めると心中穏やかならざるものになるのは容易に想像できます。結果としてトレンドに合わせて微妙に予測を変えていくこととなり、一応は無難な結果になることが多いのですが、マーケットに大きな変化が起きると大方の予測は外れます。予測を見ている投資家の立場からするとマーケットの変化が大きい時こそ当ててもらいたいのに、それが当たらないから「ストラテジストの予測はいつも当たらない!」と感じてしまうというわけです。ストラテジストがアンカリング効果に影響されるのと同様、これもどうやら投資家が持っている心理的バイアスの一つのようです。 (経済コラムニスト・大江英樹)