日本の「伝統的酒造り」無形文化遺産見通しに喜びと期待…生産者「世界に打って出る際の心のよりどころに」
日本酒や焼酎、泡盛など「伝統的酒造り」が、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録される見通しになった。生産者は伝承への思いを新たにしている。 【図表】日本酒の主な製造工程
「500年にわたり築いてきた、こうじを使う日本独自の製法が、歴史や文化も含めて国際的に認められた」。麦こうじに水と酵母を加え発酵させた甘い香りが漂う酒蔵で、麦焼酎を主に製造する「天盃」(福岡県筑前町)の多田格社長(59)は喜びを語った。
「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会」副会長としても、技術の継承に努めてきた。
「個別の酒蔵や商品ではなく、製法、考え方が評価されたことが大きい。世界に打って出る際の心のよりどころとなります」と述べ、海外への販路拡大につながることに期待する。
沖縄県酒造組合の会長で、「瑞泉酒造」(那覇市)の佐久本学社長(55)も、「世界に泡盛を知ってもらえるきっかけになる」と見込んでいる。
黒こうじ菌を使って蒸留し、琉球王朝時代から重宝されてきた「島酒」。沖縄戦での原料不足や米統治下でのウイスキーの広がりといった苦難の時代を経て、国税事務所の技術指導もあって質を高めてきた。「人と人、時をつなぐ酒として、挑戦することを忘れずに、伝統を守っていきたい」と力を込めた。
海外でのブランド力
「伝統的酒造り」の無形文化遺産登録を政府が目指してきたのは、日本の酒のブランド力を海外で高める狙いからだ。
国税庁によると、日本酒の国内の出荷量は1973年度の約177万キロ・リットルがピークで、その後は他の酒との競合や酒を飲む場の多様化など生活様式の変化で減少した。2023年度の出荷量は約39万キロ・リットル(速報値)で最盛期の4分の1以下だ。一方で日本酒の輸出量は、22年には過去最高の約3万6000キロ・リットルを記録した。
担い手確保も課題だ。「日本酒造杜氏組合連合会」によると、同会所属の杜氏の数は1965年度は3683人だったが、2022年度は712人と減った。同会の石川達也会長(60)は「業界全体で後進育成を考えなければならない」と話し、無形遺産登録が弾みになると期待する。