ヒリヒリ感が味わえる骨太サスペンス映画5選!
知的かつ魅力的な語り口で“暴力”の本質に迫る!『ヒストリー・オブ・バイオレンス』
そこは小さな田舎町。ダイナーを営むトムは家族思いの優しくて穏やかな男だ。ある日、営業中の店内で二人組が乱暴を働こうとしたところ、彼の体が咄嗟に反応し、瞬く間に撃退してしまう。一躍、街のヒーローとして大注目を集めるトム。しかし後日、彼のことを「ジョーイ」という全くの別名で呼ぶ怪しげな男が店を訪れ、封印されたはずの過去が徐々に明かされはじめる……。 “バイオレンス”と銘打っているからといって、決して暴力三昧というわけではない。いわば知的な探究を秘めたサスペンス。奇才クローネンバーグは、目の前で進行する暴力そのものをスリリングに描きつつ、さらにそれを俯瞰するような形でこの概念やシステムそのものを寓話的に描こうとする。強さとは何か。他者を力で屈させるとはどういうことか。暴力は何を生むのか。はたまた、男は過去のしがらみや連鎖を断ち切ることができるのか。太古の昔から人類が身を浸してきたであろう、生きていくため、生き残るための葛藤が克明に描かれた秀作だ。
現代史の重大局面を映像化した逸品サスペンス!『ゼロ・ダーク・サーティ』
この映画は、真っ暗闇の中で9.11の壮絶な状況が音声のみで紡がれるという演出で幕が上がる。あれから10年近く。アメリカの出口なき戦いがなおも一進一退の混沌とした状況を漂う中、一人のCIA女性分析官が長きにわたり辿り続けてきた糸口によって、ついにオサマ・ビン・ラディンのアジトにまつわる有力な手がかりが浮上し……。 『ハート・ロッカー』(2008年)でオスカー受賞したコンビが、取材で得た証言とフィクションを織り交ぜて描くアクション・サスペンス。もともと'11年に特殊部隊による殺害作戦成功のニュースが世界を駆け巡った際、二人は別のビン・ラディン追跡作戦に焦点を当てた企画を準備中だったとか。そこで方針転換し、これまでに得た知識、人脈を最大限活用し、本作をゼロから構築していったと言われる。2時間37分、肌身で感じる途方もない緊張感。まとわりつく砂塵。時に襲われる無力感と絶望。見終わった後、乾ききった心に複雑な感情が込み上げ、深いため息をつかずにいられなくなる作品だ。