多様な働き方の後押しか、安易な切り捨て横行か…自民党総裁選で争点化 「解雇規制見直し」巡り、経営者側と労働者側に交錯する期待、懐疑
27日に投開票される自民党総裁選では、解雇規制の見直しが争点の一つになっている。終身雇用や年功序列といった慣習が依然根強い中、鹿児島県内の経営者や労働者からは「多様な働き方の後押しになる」「安易なクビが怖い」などの声が聞かれた。労働市場の流動性が高まれば生産性向上も期待される一方、地方にとっては人材流出にもつながりかねず、多くが慎重な姿勢を求めた。 県経営者協会の浜上剛一郎専務理事は「規制緩和が労働者の多様な働き方の後押しになればいい」と進展に期待を寄せる。ただ総裁選を見ていても「議論が雑ぱくで、ピンときている経営者は少ないのではないか」と首をかしげる。 経営側より立場の弱い労働者を守るため、解雇は法令や判例で規制されている。経営不振や事業再編に伴う「整理解雇」では、「配置転換や希望退職の募集などの回避努力」といった4要件を満たす必要があるなど、ルール自体が煩雑だ。浜上専務理事は「改めて現状から把握する必要があるのでは」と指摘する。
鹿児島市で電気工事会社を経営する50代男性は「うちのような中小企業では、役員も従業員も家族のように毎日顔を合わせる。仮に解雇しやすくなっても実行はしにくい」と漏らす。そもそも解雇規制が注目されることに懐疑的で、「深刻な人手不足を解消する方が先決だ」と注文した。 事実上の首相を決める自民党総裁選で、解雇規制緩和が論点となっていることに、労働者団体は警戒感をあらわにする。 連合鹿児島の海蔵伸一事務局長(57)は「不当解雇が正当化される恐れがあり、労働者にとって不利益しかない。容認できない」と憤る。県労働組合総連合の溝口琢事務局次長(56)は「既に非正規労働者が多く、さらに雇用の不安定化に拍車をかける。安心して働ける社会の展望を考えるべきだ」とくぎを刺す。 県民の受け止めはさまざまだ。非正規雇用で働く同市明和4丁目の40代女性は「解雇しやすい環境になっても、正規雇用が増えると思えない」と冷ややかだ。20代男性は「サボりがちな先輩に誰も注意できない空気があり、若手の士気も下がっている」と理解を示す。ただ「乱用が起きない仕組みづくりが大前提だろう」と話した。
南日本新聞 | 鹿児島