新大統領に市場は好感 対中、メキシコやりすぎ政策“しっぺ返し”に要警戒
輸出入でお世話になっている国々に過激な経済政策を実行すると?
一方、懸念されるのはトランプ氏が提唱してきた過激な経済政策です。有言実行で中国(45%)、メキシコ(35%)に輸入関税が設定された場合、これらの国が壊滅的な被害をこうむるのは当然のことながら、米国、日本、世界経済に悪影響が及びます。 ちなみに米国にとって最大の輸入元は中国ですが、ここにはいわゆる「逆輸入」というフローで、米企業の中国現地法人が中国国内で生産した製品を米国が輸入する取引が数多く含まれています。そこに関税がかかれば、米企業の収益が大打撃をこうむるのは自明ですし、米国内の消費者にも悪影響が及びます。たとえば、スマホは中国で組み立てられて米国に出荷されていますから、米消費者は間接的に関税の負担者となってしまいます。 メキシコへの関税も同じです。メキシコは地理的に米国へのアクセスが良く、人件費も安価なため、米国向け輸出の主要拠点となっています。それゆえ、関税が導入されれば経済に悪影響が及ぶ可能性が高いでしょう。当然のことながら、日本企業も中国、メキシコ(特に自動車)に多くの製造拠点を有していますから悪影響は免れません。このように高率関税の設定は、あらゆる国のあらゆる観点から好ましくない政策と考えられます。 このほか、過激で好ましくない政策の代表的なものとして、移民排斥(含むイスラム教徒問題)、メキシコ国境での壁建設問題などがあります。これら政策の実施が現実味を帯びてくるようだと、上述したトランプ共和党誕生による景気回復期待は一気に消失することになるでしょう。
日本に与える影響は?
なお、日本経済に与える影響としてTPP発効停止が問題となっていますが、TPPの経済効果は極めて長期のタームで累積的に生じるため、短期的な影響を考察するのは困難です。第一印象としては輸出企業にネガティブですが、これは現在の状態が継続するということですから、少なくとも状況が悪化に転じるという訳ではありません。また、より重要なこととして、“トランプ政権誕生=TPP発効停止”と解釈するのは事実誤認です。というのも、クリントン氏も8月にTPP撤回を明言していたからです。選挙結果がどちらであっても帰趨は変わらなかった可能性が高かったというわけです(念のため、TPP発効停止が決まったわけではないことを付け加えておきます)。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。