新大統領に市場は好感 対中、メキシコやりすぎ政策“しっぺ返し”に要警戒
周知のとおり米大統領選ではトランプ氏に軍配が上がりました。そこで本稿では経済的な視点からトランプ共和党政権とクリントン民主党政権の相違を確認したうえで、新政権の誕生が経済にどういった影響を与えるか考察していきたいと思います。(解説:第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)
トランプ氏「共和党」の経済政策に市場は好感触
まず、トランプ氏の「共和党」とクリントン氏の「民主党」について、それぞれの経済政策の基本スタンスを確認します。共和党は自由な競争社会が好ましいとの理念に基づき、減税と規制緩和を経済政策の主軸に置く一方、民主党は平等や格差是正を念頭に、公共投資や社会保障の拡充など歳出拡大を伴う政策に軸足を置いています。端的に表現すると共和党は「小さな政府」、民主党は「大きな政府」となります。今回の選挙でも基本スタンスはこのような形でした。 そこで共和党の経済政策を具体的にみていきます。トランプ共和党が掲げた主な経済政策は「大型減税」、「規制緩和」です。まず「大型減税」に目を向けると、法人税率を現行の35%から、先進国最低レベルの15%まで引き下げるほか、海外留保利益を国内に還流した際に課税される税率を時限的に10%へと引き下げるとしています。前者は全ての米企業に、後者はグローバル展開する大企業を中心に朗報となります(当然、日本企業の米国法人も含まれる)。また個人向けについては、所得税の最高税率を現行の約40%から33%へと引き下げるとともに税率区分を7区分から3区分へ簡素化するとしています。そのほか、相続税の廃止も掲げています。 次に「規制緩和」に目を向けると、トランプ氏は「ドット・フランク法廃止」という金融規制法を撤廃すると公言しているほか、エネルギー、薬品関連などの規制撤廃を数多く盛り込んでいます。これらは概して短期の米景気にポジティブな内容と言えるでしょう。
市場はこうした経済政策を好感しています。今回の選挙戦はトランプ氏の過激な発言ばかりが目立ち、経済政策の細かい部分が吟味されなかった印象ですが、いざトランプ共和党政権の誕生が現実のものとなると、それは少なくとも目先の米国経済にとって悪い話ではありません。また共和党が上院・下院を掌握し、議会の“ねじれ”が解消され、政策の実行力が高まったことも市場の高評価に繋がっています。ちなみにこのねじれ解消は、トランプ氏の過激な政策に対する抑止力になるとの見方が多いように感じられます。 金融市場ではNYダウが市場最高値を更新し、日経平均株価も大幅に上昇。為替は「強い米国・強いドル」というテーマの下、ドルが主要通貨に対して買われ、ユーロ、豪ドル、スイスフランなで主要通貨に対してドルは著しく上昇しています。そうしたなかでUSD/JPYは107円まで円安が進みました(11/14時点)。このようにトランプ共和党政権の誕生は、米国経済の回復期待を通じて日本経済にプラスの影響をもたらしています。