西田敏行さん弔問客への「張り込み」取材に自問自答 達成感も喜びもなく申し訳なさだけが…
<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム> 俳優西田敏行さんが10月17日、虚血性心疾患のため都内の自宅で亡くなった。76歳だった。記者は西田さんの自宅前に足を運び、弔問に訪れた著名人へ取材を行った。いわゆる「張り込み」取材だ。 【写真】西田敏行さんの弔問に訪れた西島秀俊 記者は4月に入社したばかりで、西田さんへの取材の機会には恵まれなかった。それでも、学生時代から西田さんが出演していた作品や番組はテレビで数多く見てきた。西田さんの訃報に衝撃を受けたとともに、悲しさを抱いた。 その翌日、西田さんの自宅へ、弔問に訪れた著名人を取材することを任された。しかし、どのような心持ちで取材をすればよいかわからなかった。「自宅前で取材をするなど迷惑ではないだろうか…」「悲しみに暮れる方々に対して話を聞く必要があるのだろうか…」「誰かの死をここまでして追う必要はあるのだろうか…」こうした取材に対する批判はSNS等でも多数書き込まれたはずだが、記者も同じ思いだった。 釈然としないまま、西田さんの自宅前で取材を続けた。すると通夜の前日、西田さんの自宅前にいると、西島秀俊(53)が弔問に訪れた。涙を流しながら自宅を後にする西島に、報道陣は話しかけた。応答はなかった。その後、自分の中で悲しみに暮れる人に対して話を聞きに行ってしまったという思いに押しつぶされそうになった。 そんな思いを抱えながら記事を書き、読者の方へ届けた。すると非常に多くの読者の方に読んでいただけた。しかし、そこには一切の達成感もなければ喜びもない。むしろ、「こんなことをしてしまった」という申し訳なさしか残らなかった。 そのことをデスクに打ち明けた。すると「でも、西田さんを悼むコメントもたくさんあるよ」と教えられた。続けて「著名人の口から語られる話を聞くことで、在りし日を思い出して、温かい気持ちになったりより深く悼む気持ちになったりする効果もある。こうした記事がなかったら、西田さんの死を悲しむ機会は失われてしまう。悲しみを共有する場を作ることも大事なんだよ」と説得された。 確かに、西田さんの近くにいた著名人から語られる思い出を記事として伝え、読者の方とともに悼む機会を提供することが、自分に託された仕事だったのだろう。「張り込み」中は常に自問自答を繰り返し、そして今も釈然としない部分はあるが、ようやく納得できる理由をひとつ見つけることができた気がした。 西田さんの訃報から1カ月が過ぎようとしている。今でも当時抱いた罪悪感や疑問を何度も思い出す。自分がしているこの取材手法は正しいのか…どのような役割を果たせているのか…これからも自問自答を繰り返しながら、芸能記者として歩みを進めていきたいと思った。 西田敏行さんのご冥福をお祈り申し上げます。