都内「タワマン乱立」で“下町消滅”は問題ないのか 「商店街をなくす再開発」ばかり進み、「下町情緒」は消え本当にこれでいいの?
■杉並にも「行政による再開発」の魔の手が… 一方、再開発が進むのがJR中央線の中野駅周辺エリアだが、それが西隣の杉並区まで及ぶと、どうなるだろうか。 杉並区が誇る、高円寺、阿佐ヶ谷、西荻窪という、戦後長年かけて成熟した古い街並みと文化が、再開発で変質する恐れがある。これまで培ってきた「杉並らしさ」を毀損しかねないのだ。 古着店など、中央線文化を象徴する高円寺では、商店街やその住民が商店街を分断する道路の新設にかつて反対し撤退したが、計画そのものは残っている。
隣の文士の街の阿佐ヶ谷では、改革派区長が前区長の再開発計画を実行に移そうとしている。 行政に「商店街を守る人情」はあるのだろうか。 「人口が増えれば、税収が増えて、自治体はラクになる」という短絡的な発想の首長は多く、その手段として自治体が仕切れる再開発に頼りがちだ。 再開発事業に「街としての多様性や潤い」を求めるのは限界がある。 冒頭で紹介したように、品川区の東急武蔵小山駅付近にも、複数のタワマンが立地し、新しい商業施設が立ち並ぶ。
それらは武蔵小山の歴史ある商店街が醸し出す空気とは異質で、武蔵小山に豊洲を接ぎ木するようなものだ。 その豊洲でも、最後に残された4丁目の商店街の動向が注目される。 豊洲駅前の都営住宅が高層化され、余った大量の都有地が再開発に供せられる可能性が高いからだ。 下町情緒は消え去り、「銀座に近い」だけがメリットとなる日も近いだろう。 ■「再開発の功罪」東京の未来はどうなる? 近年の不動産価格の高騰により、これまでは不可能だったような地価の高いところでの開発が可能になった。
「ユニークな商店街がタワマンと連結させられる」という事態は、功罪両面があることを押さえておこう。 また、再開発は道路や防災防火事業とセットで行われることも多く、武蔵小山界隈にも買収済みの都道用地が途切れ途切れ存在する。 金網で囲われ、異様な景観を作っているのだ。 あちこちで「いびつな再開発」が進む東京の未来はどうなるのか。 東京圏全体を大宇宙ととらえると、大宇宙の中には多くのエリア(小宇宙)が多数存在する。そうしたローカルな新規需要や撤退需要を考えながら、マクロ視点で眺め続けよう。
山下 努 :不動産ジャーナリスト