日銀の物価目標2%に到達しても、金融正常化が難しいのはなぜ?
日銀が四半期ごとに発表する経済・物価の展望レポートによれば、日銀は消費者物価の前年比が2%に到達する時期を2019年度頃と予想しています。仮に日銀の予想どおり2%に到達すれば、金融政策の正常化が進むと考えられます。 ここでいう正常化とはマイナス金利撤回や10年金利操作目標の廃止、バランスシート縮小、ETFの購入減額・停止などです。しかしながら、その実現は難しいでしょう。後述するように、その頃になると米国の利上げが最終局面か、あるいはすでに終了している可能性があり、日銀の引き締め的な政策が金融市場で際立ってしまうからです。 米国が断続的な利上げを実施している最中に日銀が引き締め方向へ政策転換するならば、日銀の引き締め効果は軽減されそうですが、連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを止める局面では引き締め効果が増幅されてしまう可能性が高いといえます。
消費者物価が2%に到達しても、金融政策の正常化は難しい理由とは?
ここで米国の利上げ計画を確認します。FRBメンバーの利上げ計画を集計したドットチャートによると、2018-19年に合計6回の利上げが実施された後、2020年は2回の利上げが計画されています(図参照、中央値の水準から何回の利上げが計画されているのか読み取るのが通例)。 現時点では2020年末にFFレートが3.5%程度へと引き上げられる見通しですが、ここで重要なのはその時点のFFレートがすでに景気に中立的な金利を上回っていることです。政策金利が中立金利を上回っている状態は、景気の過熱を抑える段階にあることを意味していますから、それは通常、利上げの最終局面にあたります。その頃の金融市場の主要テーマは「連邦準備制度(FED)の利上げがいつ終わるか?」に集中しているでしょう。債券市場では2年より短期の金利が頭打ちとなり、それより長期の年限は低下に転じている可能性が濃厚です。為替市場ではUSDの先安感が意識されていることでしょう。 このような状況で日銀が本格的な引き締めに着手することは、米国との相対感で日銀の引き締め姿勢を際立たせる可能性が濃厚です。USD/JPY下落など引き締め効果を増幅することは日銀が最も避けるべき事態であり、その引き金を自らの手で引くのは困難と考えられます(慎むべきことでもあります)。したがって、日銀の予想どおりに消費者物価が2%に到達したとしても金融政策の正常化は難しいと判断されます。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。