私なりに車イスの誤解解きたい 前輪で絵を描く「ヤノガハク」の思い
私は車イスに乗っているだけ、同じ人間ですから
車イスの前輪にハケを取り付け、地面に敷いた大きな紙にウィリーやバックを繰り返しながら絵を書く。そして、「点」などを描く時は器用に車輪を回転させ、それによりハケから飛んだ絵の具がうまい具合に紙に落ちていく。そう、日々の生活で積み重ねてきた鍛錬の成果でもあった。
一筆描いては紙の乾きを待って、次にまた描くを繰り返す。乾かないまま描けば車輪で紙が破れてしまうからだ。ゆっくり、じっくり、手間ひまをかけながら作品は完成していく。その工程を「ヤノガハク」の名で公式サイトや動画投稿サイトなどで公開したところ、反響を得始めた。そして、作品展などへの応募も続けていくうちに、昨秋行われた「東京デザインウィーク」の100人展に選ばれ、披露することもできた。 昨年、3年勤めた会社を退職し「ヤノガハク」としての一歩を踏み出したばかり。だが、現在は充実した日々を送ることができているという。そして、作品を描きながら伝えたいことも日々考えている。それは、健常者と障害者の間にある誤解が解きたいということだった。 「わかってないだけとか思いこみとか『障害者だから』と思っている健常者の方もいると思う。私は人に『第一印象どんなん?』とい聞いたりもするんです。そしたら『さわっていいのかわからずどう接すればいいかわからなかった』という人もいました。構えなくてもいいんです。私は車イスに乗っているだけで、同じ人間ですから」
ひとつ弱音があるとすれば「トイレだけは」
どんなこともプラスに考え、思いをはっきり伝える矢野さん。「例えばエレベーターがなくたって大丈夫。階段で運んでくださる人がいたら」と笑顔で答え、弱音ははかない。ただ、ひとつだけ、弱みがあるとしたら、それは「トイレ」だという。「こればっかりは『車いすごと入れるトイレ』がないと、どうしようもないですね。けど、こういうことも誰かが言わないと変わらない。そういうこともいっぱい伝えていきたいです」と明るく答える。 そんな矢野さん、13日午後に大阪府吹田市の万博記念公園で行われる「ABC朝日放送ラジオスプリングフェスタ」のイベント舞台で、恩師の顔を舞台で描くことになった。その恩師とは、大学時代の「話し方」の授業を受け持っていた教授でもある、桑原征平アナウンサーだ。この活躍を聞いた桑原アナが企画を提案し、この舞台での開催が決まったという。 「私はまだ、やっとスタート地点に立てたばかり。こんな大チャンスめったにないこと。がんばります」と意気込む矢野さん。恩師の粋な計らいに応えるべく、当日に向けきょうも技量を磨き続けている。