「休養」も頭をよぎった世界王者、宇野昌磨単独インタビュー 表現者として目指す極致、そして〝最後〟の五輪への思い
絶不調のまま乗り込んだ3月の世界選手権では追い打ちをかけるようなアクシデントに見舞われる。ショートプログラム(SP)前日の公式練習で右足首を負傷。直後は歩くことすらつらかった。 絶体絶命の窮地と思われたが、人生は不思議なものだ。災い転じて福となす。「調子が下がっていく一方の中でのけがだったが、逆にそれが良かった。精神的に追い込まれたからこそできた、感情のこもった演技だった」。SP、フリーともにトップ。雑念の消えたスケーターは、王座を守り抜いた。 ▽求める先にあるのは「自己満足なのかも」 2連覇を達成しても、思いが満たされたり、目標を見失ったりする雰囲気はなかった。むしろ、渇望という言葉がふさわしかった。「自分のやりたいことが一つ成し遂げられたからこそ、過去に僕がもう一つ成し遂げたかったこと『表現者として自分の魅力は何か』を、自信を持って言えるスケーターになりたい」。ジュニア時代から憧れ続けた元世界王者の高橋大輔さんや師事するステファン・ランビエル・コーチを引き合いに「見ていると自分も踊り出したくなるようなスケーターになりたい」と目を輝かせた。
ただ、表現面を示す演技点は世界選手権でSP、フリーとも3項目全てで9点台をそろえており、既に世界のトップだ。それが分かっているからこそ、求める先にあるのは「自己満足なのかもしれない」と感じている。「10点満点の表現なんてあってはいけないと思っている。欲しい評価は、お客さんがどう思ってくれるのか、自分がどう思えるのか」。数字では測りきれないフィギュアスケートの奥深さ。高橋さんやランビエル・コーチが到達した極致に、宇野も近づこうとしている。 オフはアイスショーに重点を置き、新シーズンは例年よりも遅い始動を予定する。8月に横浜市、9月に名古屋市で開催される「ワンピース・オン・アイス」では海賊王を目指す主人公ルフィに扮す。「フィギュアスケートの魅力を体現したい。そのために僕からすごくかけ離れている、本当ならやらなさそうな何かを演じたいと思っていた」。アニメのキャラクターという新たな挑戦も、殻を破るきっかけと捉えている。