眠ったままの私たちの700億円はどこに行くのか? 「休眠預金」活用への期待と課題(中)
市民活動にとっての危機をチャンスにできるか
さまざまな不安の声が上がる一方、この機会をNPOを成長させるチャンスとして捉えようという見方もあります。 愛知県で市民活動団体の経営支援などに携わるNPOスタッフの男性は「指定活用団体が経団連系の団体に決まったことで、これまでにはできなかったNPOと大企業の連携が実現する機会になるかもしれない」と期待します。SDGs(国連サミットで採択された持続可能な開発のための国際目標)への関心が高まる中、NPOや市民活動団体だけでは達成できなかった社会課題への取り組みに大企業を巻き込むことで、大きな前進があるのではないかというのです。 また、外部から評価されたり、自らの価値を発信する必要に迫られることで、今まで苦手だった活動の価値を広く伝えるきっかけになると捉える向きもあります。
休眠預金を効果的に活用していくカギは?
全国のNPO支援組織などからなるネットワーク「現場視点で休眠預金を考える会」も、動き出してしまった制度を少しでも現場の実態に合ったものにするため、選定された指定活用団体に対して過度な成果主義としないことや、小規模な団体にも配慮した運用とすることなどを呼びかけていく予定です。同会のメンバーの一人で、福岡市で生活困窮者の支援を行う「NPO法人福岡すまいの会」の服部広隆さんは「資金分配団体が助成先を公募するだけではなく、助成を受ける側の団体も資金分配団体を選べる仕組みを作れないか」と提案しています。 まだあいまいで不透明な部分も多い制度を、いかに社会が抱える諸課題に取り組む人々の大きな助けとなるものにしていくか。指定活用団体や資金分配団体がいかに公正性を担保しながら、市民活動を行う団体が持っている多様な価値観を尊重していくことができるか。こうした議論をさらに深めていくことが、休眠預金を効果的に活用していくうえで大きなカギとなりそうです。 最終回となる次回は、こうした実際の活動に携わる現場からの意見に対する、指定活用団体となった一般財団法人・日本民間公益活動連携機構の見解を紹介します。 (石黒好美/Newdra) <プロフィール> 石黒好美/1979年、岐阜県生まれ。岐阜大学地域科学部卒。印刷会社、IT関連会社勤務の後、障害者・生活困窮者の相談支援などに携わる。日本福祉大学福祉経営学部(通信教育部)を経て社会福祉士に。現在は主にNPO、CSR、福祉、医療などの分野で執筆。名古屋の取材・報道チーム「Newdra」メンバー。