眠ったままの私たちの700億円はどこに行くのか? 「休眠預金」活用への期待と課題(中)
前回の記事(眠ったままの私たちの700億円はどこに行くのか? 「休眠預金」活用への期待と課題(上)2019年1月31日配信)では、日本全体で年間700億円にも上る「休眠預金」が民間の公益活動に活用される制度が始まったことを伝えました。しかし、その詳しい内容については、公益活動の担い手であるNPO関係者でも未だ把握できていないのが現状です。そのため、各地の有志が制度について学ぶ学習会を始めています。 そんな学習会の一つが1月9日に神戸市で開催されました。「休眠預金がやって来る」と題したこの日の会には、NPOや市民活動団体、社会福祉協議会の職員などを中心に兵庫県内だけでなく県外からも数多くの参加者が訪れ、休眠預金に対する関心の高まりがうかがえました。
「目に見える成果」を出す「革新的な活動」を重視
貧困家庭や高齢者の支援などに、休眠預金から資金的な援助が行われるこの制度。さぞかし現場は歓迎ムード一色なのでは、と思うかもしれませんが、実際には活動への悪影響を不安視する声が少なくありません。なぜでしょうか? その大きな理由の一つは、制度の基本方針で「活動の革新性」「イノベーション」「具体的な成果を出す」といった言葉が繰り返し強調されていることです。貧困や急激な少子高齢化など、山積する社会課題の解決のためにこれまでにない画期的な手法を生み出し、事業の成果を最大化できる活動に休眠預金を活用しようという意図なのでしょうが、学習会で講師を務めた公益財団法人「ひょうごコミュニティ財団」代表理事の実吉威さんは「手法の新しさや分かりやすい成果ばかりを重視しては、困難な状況にある人を丁寧に支えてきた活動を排除しかねない」と語ります。 長く家庭内の問題とされてきたドメスティック・バイオレンス(DV)の被害者や不登校児の支援。こうした活動は20年、30年と継続しながら、DV防止法やフリースクールでの学びを保障する教育機会確保法を成立させるなど、確実に社会の価値観を変えてきました。また、若者に就労の機会を提供する活動は、対象者の心身に障害があったり、家庭環境に複雑な問題を抱えていたりするケースがよくあります。活動団体はそうした若者にも粘り強く向き合い、時間をかけて就労を促します。 ところが、休眠預金制度の基本方針はこうした地道な活動に言及していません。制度は開始から5年後に見直される予定です。期間内に「具体的な成果」を出そうと急ぐあまり、就労へのハードルが高い若者よりも、短期間の職業訓練ですぐに就職できそうな若者を優先して支援するようになったりと、より困難で支援に時間のかかる人がかえって取り残されてしまわないかとの危機感も示されました。