マツダCX-80はCX-60から何を学び、どう変えたのか?
マツダ渾身のラージ商品群のトップバッターはCX-60だった。直6エンジン+FRプラットフォームの意欲作は、乗り心地、NVHの面で市場から予想外のコンプレインの声が上がった。マツダ開発陣は、CX-80を開発するにあたって、入念な仕上げを行なった。果たして、CX-80のサスペンションは目論み通り仕上がっているのだろうか? TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota) CX-80のサスペンションはCX-60からどう変わったか? 縦置きパワートレーンを採用した2列シートSUVのマツダCX-60は2022年に国内でデビューした。それから2年。同じラージ商品群に属する3列シートSUVのCX-80が国内で発売された。全長とホイールベースはCX-60より250mm長い。マツダのラインアップの中で最高価格帯を受け持つため、相応の風格が与えられることになった。 同時に、CX-80には横置きパワートレーンで構築した3列シートSUVのCX-8の後継としての役割も与えられることになった。CX-8の乗り換えとして購入してもらえるよう、家族や友人と一緒に楽しく快適にロングドライブが過ごせる性能を作り込むターゲットが与えられてもいる。CX-60はどちらかといえばスポーティな味つけ。CX-80は快適性寄りだ。 CX-80はCX-60より慣性諸元が大きいため、CX-60のようにキビキビ動かす方向で仕立てると、限界領域ではしっぺ返しが大きくなってしまう。そのため全般に、穏やかな動きになるよう仕立てられた。また、CX-60の発売以降に市場から指摘されたポイントに対する手を打ってもいる。 フロントはダブルウィッシュボーン式、リヤはアッパーリンク2本+ロワーリンク2本+トーコントロールリンクで構成するフルマルチリンク式で、前後のサスペンション形式とジオメトリーに変更はない。いっぽうで、CX-60との対比ではいくつかの変化点を指摘することができる。 リヤコイルスプリングのばねレートは下げた。これは、CX-60で市場から指摘のあった乗り心地、とくに突起乗り越え時の挙動を改善するのが狙いだ。CX-60で見られた特定の入力に対してばね上とばね下が一緒に動いてしまう事象を回避するためで、ばねレートを下げることでサスペンションを柔軟に動かすようにした。マツダはしばしば、ばねレートの変更を年次改良で行なうが、CX-80で行なった振り幅は通常よりも大きいという。 ウレタン製のバンプストッパーをCX-60比で5mm短くしたが、これも乗り心地改善が狙いである。サスペンションが縮み側にストロークすると、コイルスプリングが縮んだ際にバンプストッパーが当たるようになるが、その際コツコツとした衝撃が乗員に伝わりがち。乗り心地を大事にしたい領域ではバンプストッパーに当てたくはなく、CX-80では短くしたということだ。バンプストッパーとしては5mmの短縮だが、サスペンションのレバー比の関係から、ホイールストロークで見ると8mmになる。ばねレートとバンプストッパーの変更は、橋桁を乗り越えた際などにガツンとくる入力や、うねりのある路面での乗り心地改善に効く内容だ。 ダンパーの減衰力は4輪とも上げた。CX-60のダンパー減衰力はマツダ車としてはかなり低めの設定だったというから、低かった減衰力を標準値的な方向に引き上げたということだ(常用域の高い欧州向けは日本仕様よりも減衰力を10~15%高く設定している)。ばねレートとバンプストッパーの変更で突き上げのような瞬時の大きな入力はマイルドにしながら、ゆっくりした動きは抑える方向。ばねレートは下がっているので、旋回時に定常姿勢に入った領域でのロール角は深くなっているが、ターンインするシーンでロールに移行する際はスピードが抑えられている。そんなイメージだ。 リヤサスペンション:マルチリンク式 リヤのクロスメンバーにはリンクの取り付け点が左右に各4点ある。取り付け点にはゴムブッシュが圧入されており、特定の方向にだけ柔らかくするためのすぐり(スリット状の肉抜き)が入っている。CX-80はCX-60と異なる角度でブッシュを圧入している。2列目シートをフロアに直接固定するCX-60と異なり、CX-80はスライドレールを介して固定する。そのため、シートバックの共振点がずれてばね下のヨー方向の共振と重なってしまったそう。その結果、シートバックがブルブル震える事象が生じた。そこで、ブッシュのすぐり位置を変えてばね下の共振点をずらし、課題を解決したというわけだ。 CX-60より慣性諸元が大きなCX-80の限界領域での挙動を穏やかにするため、タイロッドのナックル側取り付け点は1mm下げた。タイロッドに下反角をつけ、旋回外側輪が外向きになるバンプトーアウトの特性とするためである(前引きラックなので、バンプした際はタイロッドがナックルを押し出す方向)。旋回外輪が沈み込んだ際にトーアウト方向に動かし、アンダーステア方向の特性を作り込む狙いだ。 スタビリティ確保のため、リヤのスタビライザーはグレードを問わず廃止した(CX-60は2.5L直4エンジン搭載のFR車だけ非装着)。リヤのロール剛性を落として相対的に(アンダーステア傾向にした)フロントに仕事をさせるようにし、限界領域で過度に踏ん張らないような仕立てとした。 フロントサスペンション:ダブルウィッシュボーン式 ダブルピニオンEPS(電動パワーステアリング)の制御も変更した。CX-60ではステアリングが重め、また、戻りが弱いという市場からのフィードバックがあり、その声に対応した格好。戻りに関してはニュートラル側に戻す制御を強め、従来からある横置きパワートレーン車のセッティングに寄せる方向で修正している。 穏やかに動く方向の足まわりがいい 郊外の一般道、高速道路、小さな曲率が連続する都市高速、そして市街地でCX-80をドライブした。CX-60との対比でいえば、CX-80は総じて穏やかな印象だ。乗り心地面で顔をしかめたくなるようなシーンはなかった。決して機敏ではないけれども、ステアリングの操作に対して期待通りに向きを変えてくれるのでストレスは感じないし、ラグを感じないのでクルマを必要以上に大きく感じることもない。駐車スペースにバックで進入する際に長さを意識するくらいだ。 総じて穏やかな仕立てとはいえ、左右のコーナーがランダムに現れる上り・下りのワインディングロードでも、クルマの重さや大きさを持て余すことなくクリアすることができる。レーンに留まらせておくのがやっとというような感覚ではなく、反対に、コーナーの連なりをクリアするのが楽しくなるようなクルマの動きだ。旋回姿勢がビシッと決まるので、安心して攻め込んでいくことができる。 アダプティブクルーズコントロール(マツダの場合はMRCC)とレーンキープアシスト(CTS)はアップデートされたのかと錯覚するほど、ライントレース性の面で上手に機能していた。技術者に確認したところ、制御のバージョンはCX-60と同じだという。つまり、アップデートしていない。考えられるのは、CX-80は穏やかに動く方向で足まわりが仕立てられているため、制御の介入による車両の動きが穏やかで、ゆえに制御が上手になったように感じられるのではないかとのこと。逆に機敏に動く用に仕立てたCX-60は制御の介入に対する動きも機敏になりがちで、それゆえギクシャクした動きになりがち。合点のいく話だ。 今回の試乗では、3.3L直列6気筒ディーゼルエンジンに48V駆動のアシストモーターを組み合わせたe-SKYACTIV-D 3.3と、8速AT内にアシストモーターを持たないSKYACTIV-D 3.3に乗った。後者はCX-60の同等グレード比で180kg重いが、力不足はまったく感じなかった。蹴り出しから充分な力を出してくれるため、市街地走行でストレスを感じることはない。高速道路での本線への合流や追い越しについても、頼もしさを感じるのみである。変速時のクラッチのつなぎも上手で、その際に体感する変動はショックではなく変速のインフォメーションだ。 最高出力12.4kW、最大トルク153Nmを発生するモーターを持つe-SKYACTIV-D 3.3搭載車はディーゼルエンジンだけで走るSKYACTIV-D 3.3搭載車にも増して快適だ。高速道路走行中にアクセルをオフにすると、エンジンは自動的に停止し、クルージングに移行。アクセルを踏み込むとエンジンは再始動するが、メーター内の回転計を意識していなければ気づかないほどで、エンジン停止~再始動にともなうショックは皆無である。減速時にはエネルギー回生を行なうこともあり、燃費ポテンシャルはSKYACTIV-D 3.3より高い。 走り方にもよるが、CX-80はアシストモーターありでもなしでも高速道路が主体なら20km/Lオーバーの数値を軽々と叩き出す実力の持ち主という印象。車重と前面投影面積の大きさを考えたら恐るべしである。マツダのフラッグシップとしての風格が与えられ、穏やかにしつけられた乗り味を持つ3列シートSUVのCX-80、力強い走りと燃費の良さは完全にCX-60譲りだ。 マツダCX-80 XD-HYBRID Exclusive Modern 6人乗り 全長×全幅×全高:4990mm×1890mm×1705mm/1710mmmm(ルーフレールあり) ホイールベース:3120mm 車重:2090kg サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式/Rマルチリンク式 駆動方式:FR エンジン 形式:直列6気筒DOHCディーゼルターボ 型式:T3-VPTH型(e-SKYACTIV-D3.3) 排気量:3283cc ボア×ストローク:86.0mm×94.2 mm 圧縮比:15.2 最高出力:254ps(187kW)/3750pm 最大トルク:550Nm/1500-2400rpm 燃料供給:DI 燃料:軽油 燃料タンク:74L トランスミッション:トルクコンバーターレス8AT モーター(M-HYBRID Boost) MR型永久磁石同期モーター 最高出力:16.3ps(12kW)/900rpm 最大トルク:153Nm/200rpm 燃費:WLTCモード 19.2km/L 市街地モード16.2km/L 郊外モード:19.1km/L 高速道路:20.8km/L 車両本体価格:596万7500円
世良耕太