東大・渡辺向輝 父・俊介氏に「来年はもっと似ちゃうかも」ワインドアップ挑戦中 下手投げ転向の葛藤や転機
今秋の東京六大学野球でリーグ戦初勝利を挙げた東大の下手投げ右腕・渡辺向輝投手(3年・海城)がデイリースポーツの単独インタビューに応じた。元ロッテの“ミスターサブマリン”こと渡辺俊介氏(48、現・日本製鉄かずさマジック監督)の長男。父と同じ投法に至るまでの葛藤や転機となった東大受験、プロ志望届提出の可能性などについて語った。 背中を追ってきたのではない。常に自分の力で追い越そうとしてきた。「サブマリンの渡辺」が誕生したのは、わずか2年前。入学当初は正統派の上手投げだったが、リーグ戦に出場している先輩から「このままだと東大の並の投手になっちゃうよ」と伝えられた。自身も他大学との練習試合を経験する中で「これで先発完投というビジョンは見えない」と実感。下手投げを試したところ手応えを得て、1年冬から本格転向を決意した。 ただ、父を参考にはしなかった。「体が小さい割に速い球を投げられることが強みだったので、それを低い所から投げられたら…と。自分の持ってる知識を総動員して、速い球を投げるところからスタートしました」。だが、東大内でも直球は通用せず。思惑は外れたが、発見があった。 「スライダーが唯一、リーグ戦に出ている先輩にも通用した。何でだと思ったら、ブレーキが利くんですよね。低めから投げると止まる感じがあって、じゃあ『前後を使うのが戦えるんだ』と気付いたのが2年生の夏頃です。スライダーを生かすため、思ったよりくる直球、もっと止まるカーブ、食い込むシンカー…これがあれば十分だなと。そこで初めて、同じ4球種で抑えていた父のフォームを見てみようと」 初めて教えを請うた父からの助言は「重力だけで投げる」こと。「オーバースローの常識と反対側みたいな理屈で、最初はワケ分かんなかった」と笑う。これまでは地面を強く蹴り、強さや速さを出す意識だったが、「父親は『蹴る』じゃなくて『残す』。右脚を残して、体に引っ張られて右脚がついてくるという感じ」。2年冬には1週間に計600球を投げ込み、感覚を染みこませた。 当初は葛藤もあった。 「同じにしたくないという気持ちだけでオーバースローを頑張ってきた。それに、同じ投げ方にして結果を残せなかったら、もはや自分の価値ってなんなんだろうと」 幼少期の父との思い出はマリンスタジアムで鬼ごっこをしたこと。「勉強もそんなに言ってくるわけでもないし、『野球以外のスポーツをやれ』と言われていたくらいで。父親が一番、比較されるのを避けようとしてくれていた気はします」。それでも小学3年生から少年野球チームに入団したが、「外野手だったんですけど、親世代の人にアンダースローをやってほしいと言われたり…」と、やはり比較されることには反抗心を抱いた。 転機となったのは大学受験だった。東大を意識し始めたのは高2の頃。東大に進学していた海城野球部の2学年先輩数人がAチームでプレーしていると聞き、憧れを抱いた。ただ「勉強は嫌いです(笑)東大を志望校にできる成績ではなかった」と回顧。受験で入学した海城中では学年で約330人中、300番台。高校入学後も目立った成績ではなかったという。 それでも部活を続けながら猛勉強した。独自の勉強法が「問題集を解かずに解説を読む」こと。「時間がない中のやり方」と強調しつつ「方針を理解するのが得意だったので、理系科目は結構はまったのかなと思います」と、最終的には学年で20位以内に入るほど成長し現役合格をつかんだ。 「勉強で自信、アイデンティティーを身につけることができた。その上で、アンダースローもやらないより、やって失敗した方が良いなと」 今では助言をもらうことも増えた。シーズン中は「父から言われてますが無視してます」と笑って明かしていたワインドアップに、今冬は挑戦中。「立ち方がきれいになると言っていたので、自然な力で重力を使いやすくなるんじゃないかなと」と意図を説明し「来年はもっと似ちゃうのかなと思います」と笑った。映像を見てカーブを中心に緩急の使い方も研究中だ。10月7日の慶大3回戦では、同じ“2世”の清原に「大事な場面の武器」だったカーブを捉えられ被弾。「すごい悔しかったです…」と回想するだけに、進化を志す。 芽生えた思いもある。「今のままじゃ無理」と現実を直視しつつ、「来年1年で自分のアンダースローのチャレンジが終わっちゃうのは悲しい。ふさわしい結果が出せたら、プロ志望届を出すことも考えると思います」と右腕。“神宮のサブマリン”の挑戦は、大海へ乗り出したばかりだ。 ◇ ◇ 今秋に7年ぶりのシーズン2勝を挙げたチームの課題は投手力だ。ベストナインに選出された野手3人が残る一方、投手は「正直、自分以外の先発が候補すらいない状態」と渡辺。後輩を積極的に練習に誘うなど新戦力の台頭を促している。自身も研究される可能性があり「精度を上げていかないと」と話す。心強い味方となるのが10人以上いるアナリスト陣だ。野球未経験者がほとんどだが、VRで投球を再現したり、打席ごとの結果など膨大な情報をボタン一つで閲覧できるシステムを作ったりと「東大の中でも優秀な人が集まっている」。8年ぶりの勝ち点奪取へ一丸で戦う。 ◆渡辺 向輝(わたなべ・こうき)2004年2月25日生まれ、20歳。千葉県浦安市出身。167センチ、63キロ。右投げ右打ち。年長から学童野球に参加し、小学3年から浦安ベイマリーンズへ入団。中学受験で海城中に入り軟式野球部でプレー。海城では1年秋からベンチ入り。東大では2年春にリーグ戦デビュー。50メートル走6秒8、遠投105メートル。ここまでリーグ戦通算16試合に登板し1勝4敗、防御率3.93。大学では農学部で農業・資源経済学専修。