抗争の舞台はついに法廷へ!? ヤクザの訴訟事案が相次ぐ背景
山健組の大半の組員は中田組長に追従。神戸側の中核組織だった山健組は5年ぶりに古巣へ帰還した。 「井上組長に会費名目で金銭を徴収され続けた山健組員の恨みは骨髄だった。とはいえ、元親に刃を向けることはヤクザの道理に外れるし、警察の厳しい追及を受ける。そこで選んだのが法廷闘争でした。井上組長名義になっている山健組の施設や、いままでタカられてきたカネで購入した不動産をぶん捕ろうと民事で訴えたのです」(前出のA氏) 今回の訴訟では、山健組側は、神戸市北区の井上組長の自宅の他、同市中央区の山健組関連施設について、「構成員が財産を拠出して不動産を取得していて総有財産」だと主張した。しかし、判決では「構成員が不動産の代金を支出したことを裏付ける客観的な証拠はない」として、山健組側の請求を完全に退けた。 「そもそも、ヤクザは帳簿などをつけないからカネの出入りが不透明。だから、金目のトラブルでヤクザ同士が民事訴訟で争うことは珍しいし、勝訴にもっていくのは難しい。まして、相手は元親だろ。それでも、井上組長に『邸宅から出ていけ』と強硬に主張する山健組からは恨みの根深さがうかがえる。 控訴をして今後も全面的に争うことになるだろうし、もし山健組側が勝訴することになれば、同じようにかつての親分に食い物にされたヤクザたちも、後に続こうと訴え出るケースが出てくるかもしれない」(前出のA氏) 暴力団が自らの権利を法律に訴えたのはこれが初めてではない。2023年5月には、指定暴力団6代目山口組系の50代の組幹部が、高速道路6社と国を相手取り、暴力団組員であることを理由にETCカードの会員資格を取り消したことは憲法違反に当たるとして名古屋地裁に提訴。取り消しの無効と損害賠償を求めて現在も係争中だ。 暴力団への締め付けが強化されるなか、極道の武器は銃弾から六法全書へと変わりつつあるのかもしれない。 文/大木健一 写真/photo-ac.com