ホンダの新SUV「CR-V」にはエンジンがない!? “燃料電池で発電”モーターで駆動! 欠点さえ許容できれば「全方位的に魅力的」
実際に触れて試乗してみると“おいしい”部分を多数実感
さて、そんなFCEVのプラグインハイブリッド車である「CR-V e:FCEV」の存在意義は、どんなところにあるのでしょう?
販売計画は年間70台と極めて少ないものの、ホンダには「燃料電池技術をしっかりと後世につないでいく」という明確な目的があります。 一方、リース専用車であるとか、消費税込で809万4900円という価格設定は、政府から255万円という補助金の交付を受けられるとはいうものの(そのため実質価格は550万円ほど)、水素ステーションが少ないといったインフラの問題などと相まって、ユーザー視点としてはなかなか手を出しづらいモデルかもしれません。 しかし、そんな「CR-V e:FCEV」に実際に触れて試乗してみると、“おいしい”と感じる部分がいろいろあったのも、また事実です。 まずこのモデルの最大の魅力は、最先端を所有する満足感です。 今でこそ電気自動車のラインナップは増えてきましたが、FCEVはまだまだ希少な存在。それが実質550万円で手に入るのはクルマの玄人には極めて高い満足度を得られることでしょう(実際にはリース販売なので“所有”できるわけではありませんが)。 しかも、トヨタの「MIRAI」や「クラウンセダン」のFCEVに比べて、扱いやすいボディサイズのSUVというのもポイントです。 そして極めつけが走りの気持ちよさ。パワフルなモーター走行による、速いけれどなめらかでスムーズな、まるで魔法のじゅうたんにでも乗っているかのような乗り味は爽快すぎます。 これはFCEVだからというよりも、モーター駆動車ならではの“味”であるため、パワーにゆとりのある電気自動車も同様の感覚ですが、水素は数分間でチャージできるという美点を持つため、自宅近くに水素ステーションがある場合、電気自動車より所有のハードルが低く感じられる人もいるでしょう。 また、加速時にドライバーの耳に聞こえてくる“音”は、ドライビングプレジャーを感じる上で重要な要素ですが、「CR-V e:FCEV」はアクセルペダルを踏み込むと、モーターの回転速度を変化させるインバーターからの「キーン!」という甲高い音と、燃料電池に空気を送るエアポンプの「クォーン!」という、まるでマルチシリンダーエンジンの高回転域での音が絶妙なハーモニーを響かせるのも好印象。こういう要素は、ドライビングを楽しく感じられる、電気自動車にはない大切な隠し味だと感じました。 ちなみに開発責任者は、「クラリティFCEV」に対して、「雑音を減らして騒がしくない燃料電池の音」、「モード計測燃費と実用燃費の差がとても小さいこと」、「きっちり曲がるハンドリングと高い運動性能」が、「CR-V e:FCEV」の大きな進化点だと教えてくれました。 実際にテストドライブした印象でいえば、そこに「良好な乗り心地」も加えておきたいところです。 もちろん「CR-V e:FCEV」は、水素ステーションが少ないといったインフラの問題に加えて、水素タンクを搭載するというパッケージング上、ラゲッジスペースが狭くなっているという欠点があるのも事実です。 しかし、それらを許容できるのであれば、クルマとしての魅力がとても高い1台であるのは間違いありません。
工藤貴宏