医師不足解消は報酬ではなく周辺業務の開放しかない
2023年の年末は、医療、介護、障害福祉の診療やサービスの対価となる診療報酬改定への議論が大詰めを迎えていた。診療報酬は2年に1度、介護報酬および障害福祉サービス等報酬は3年に1度改定が行われており、今回は6年に1度の同時改定。報酬を引き下げたい国と医師会との攻防が繰り広げられた。 診療報酬を引き下げたい国に対し、日本医師会の松本吉郎会長は11月29日の定例会見で、「物価高騰、賃金上昇の中で安全かつ質の高い医療・介護を安定的に提供するには医療介護従事者への賃上げを行い、人材を確保することが不可欠だ」と語り、改めて「診療報酬の思い切ったプラス改定しかそれを成し得ない」と強調していた。 結局、24年度の診療報酬は、医療従事者の人件費部分を0.88%引き上げる一方、医薬品の公定価格の薬価は引き下げ、全体で0.12%のマイナス改定となった(「来年度の診療報酬改定 人件費など引き上げも薬価は引き下げ」2023年12月20日 NHKニュース)。本体のプラス改定により、薬価の引き下げに伴う保険料や医療にかかる税金の軽減効果は打ち消される。 やはり医師の政治力が強いと分かった。ただし、それで松本会長が主張するような医師の人手不足解決へつながるのか。
人手不足は本来あり得ないもの
地域によって人材が確保できず医師不足になっているのは確かなようだが、であれば、不足な地域だけ医師の賃上げを行えばよいのではないか。本来、人手不足というものはあり得ないものだ。なぜなら、人手不足の業界であれば、賃金が上がり、企業がその賃金上昇を吸収できなければ、販売価格が上がる。販売価格が上がれば需要が減って、それ以上人手集める必要がなくなって人手不足は解消する。 医療や介護でこのようなことが生じないのは、医療は保険料と税金で運営されており、サービス価格や医療介護従事者の賃金を自由に上げることができないからだ。ただし、18歳で成績の良い子たちが医学部へ進学したがるという状況は変わっていない。 つまり、医者になりたがる人はいくらでもいる訳で、なぜ人出不足になるのか不思議な気もする。もちろん、なりたい人はいても訓練して医者にしなければならないのだから、訓練が間に合わないということなのかもしれない。あるいは、医学部の定員が少なすぎるのかもしれないが、定員を増やすことには医師も政府も反対のようだ。 政府の考えでは、医師が増えれば患者を増やして医療費が高騰するからだ。この根拠として、古くから都道府県ごとに病床の多いところほど医療費が高くなるという分析がある(例えば、「厚生労働白書」2005年、167頁)。さらにより直接的に、診療所の医師数が増えると医療費が増えるという分析もある(「医師総数の増加と地域偏在の状況」2022年 11月13日)。医師も、同業者である医師を増やすのは反対のようであるし、今から医師を増やそうとしても最低6年間はかかる。 厚生労働省は、医師不足対応として、医師の働き方改革をして、医師になる人を増やそうとしているようだが(「医師の働き方改革について」2021年8月13日、厚生労働省医政局医師等働き方改革推進室)、過酷な勤務を減らすというのであれば、医師の1人当たり労働時間が減ることになる。過酷な勤務を減らすのは当然だが、これでは、医師不足の解消にはならない。