クルマ好き憧れの素材だけどいかんせん高い! いつまで経ってもカーボンパーツが高価なワケ
「軽い・強い・でも高価!」がカーボンファイバー製パーツ
カーボンファイバーを用いた自動車パーツが一般に普及し始めてから、すでに30年以上が経過している。通常、製品は時間の経過とともに生産技術の向上や量産効果によって価格が下がっていくものだが、カーボンファイバーのパーツは依然として高価格帯に位置し続けている。それはなぜなのだろうか? その理由を製造工程や市場特性から紐解いてみよう。 【写真】いったい重量何キロなんだ!? 全身カーボンで成形されたGR86が登場!
職人技が必要な製造工程
カーボンファイバー強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)のパーツ製造において、もっとも大きな課題となっているのが製造工程の複雑さである。「プリカーサー」と呼ばれる原料の準備から、酸化・炭化工程、表面処理、「プリプレグ」化と呼ばれるカーボン繊維を樹脂で固める作業などは自動化されているものの、成形工程の繊維積層作業では、方向や重なり具合によって強度が大きく変わるため、機械による完全自動化が難しく、現在でも熟練工の手作業に大きく依存している。 また、オートクレーブと呼ばれる大型の加圧炉での硬化工程も必要不可欠だ。この設備自体が高額なうえ、一度に処理できる量も限られている。さらに、成形後の仕上げ工程でも、表面の光沢を出すための磨き作業など、手作業による丁寧な仕上げが求められる。
原材料費の高止まり
カーボンファイバーの原料のひとつであるポリアクリロニトリル(PAN)の製造コストも、価格高止まりの要因となっている。PANの製造には高度な技術と特殊な設備が必要で、世界的に見ても製造できるメーカーが限られている。さらに、近年の環境規制の強化により、製造過程での環境負荷低減のための設備投資も必要となり、製造コストの上昇圧力となっている。 加えて、航空宇宙産業や風力発電などの産業用途での需要拡大も原材料の価格高止まりに影響を与えている。これらの産業では、軽量化や強度の観点から、高品質なカーボン繊維への需要が高く、結果として自動車用途向けの原材料価格にも影響を及ぼしている。