永瀬正敏、佐藤浩市からのデートの誘いを回顧「あんなに緊張するデートは初めて」
8月23日(金)に公開される映画「箱男」のジャパンプレミアが7月8日に都内で実施され、永瀬正敏、浅野忠信、白本彩奈、佐藤浩市、石井岳龍監督が出席した。 【写真】「経験したくないことが起きた」27年前の出来事を語る永瀬正敏 ■撮影中断から27年…待望の映画公開 本作の原作者は、「砂の女」「壁」などその著作が世界二十数カ国に翻訳され、今なお世界中に熱狂的な読者を持つ安部公房氏。生前は「ノーベル文学賞」に最も近いとされ、日本が世界に誇る小説家の一人だ。 「箱男」は、安部氏が1973年に発表した小説であり、代表作の一つ。その幻惑的な手法と難解な内容のため、映像化が困難と言われていた。そんな作品を作り上げたのは、「狂い咲きサンダーロード」(1980年)で衝撃的なデビューを飾って以来、数々の話題作を手掛けてきた鬼才・石井監督(当時は石井聰亙)。安部氏の「娯楽にしてくれ」という要望のもと、1997年に製作が決定し、撮影のためドイツ・ハンブルグに渡るもクランク・イン前日に突如頓挫。クルーやキャストは失意のまま帰国することとなった。あれから27年。奇しくも安部公房生誕100年にあたる2024年、映画化を諦めなかった石井監督は遂に「箱男」を現実のものとした。主演には27年前と同じ永瀬、同じく出演予定だった佐藤も参加する他、浅野、数百人のオーディションから抜てきされた白本らが出演している。 ■永瀬正敏「ここまでに27年かかりました。本当にうれしい」 撮影開始前日に頓挫するという悲劇に見舞われ、27年がたって主人公の“わたし”を演じた永瀬は「ここまでに27年かかりました。今日は本当にうれしいです」と完成に感無量。石井監督も「まるで夢のよう。まだ私が箱の中に入っていて夢を見ているようです」と、満席の観客を前に痺れていた。 永瀬は27年前当時を回想して「経験したくないことが起きた。明日クランクインで、まずはスチール撮影をしようとみんなでロビーに集まっていたら石井監督がプロデューサーに呼ばれて。しばらくして監督が一人でホテルの外を歩いて行く後ろ姿を偶然見た。あれ?と思ったらプロデューサーから『この映画を中止にします』と。あの時の監督の後ろ姿は一生忘れないだろうと思った」とドイツ・ハンブルグでの衝撃的な一コマを打ち明けた。 永瀬は役作りについて「前回と同じように、撮影前に箱に入らせてもらった」と箱男化したそうで、「でも、今は猫という相棒がいてくれたので前とは違いました。相棒が箱に興味を持ってくれて一緒に入ってくれたりして。彼(猫)も箱が気に入ったようです」と、相棒との共同作業にうれしそうだった。 ■永瀬正敏が佐藤浩市との緊張のデートを振り返る 箱男殺害の完全犯罪を目論む軍医を演じた佐藤も、当時を経験した一人。「白夜の季節で21時22時でも明るい中で、冷たくないビールを飲みながらドイツを感じていました」と回想。 すると、永瀬は「浩市さんから『永瀬、デートしよう』と言われて。あんなに緊張するデートは初めて」と笑わせつつ「浩市さんから『お前はどうするんだ?』と言われたときに『俺は石井さんと「箱男」をやりたい』と答えたら、浩市さんはニヤッと笑われて『分かった』と。そこで俳優同士での意思の疎通ができてうれしかった」と思い返した。 当時、佐藤はその言葉に「うれしくもあり切なくもあり」というセンチな感情を抱いたという。 ■石井岳龍監督「いつか必ず撮りたかった」 石井監督も「製作しないという選択肢はなくて、いつか必ず撮りたかった」と情熱は消えなかったそうで「安部公房さんからは『娯楽作にしてほしい』と言われた。『箱男』は安部さんにとって非常に重要なテーマが描かれている貴重な作品。50年前の小説だけれど、まさに今の世の中に通じるものがある。情報化社会が進んで一人一台スマホを持ち、コロナ後は一人一人が家に籠った。一人一人が見えない箱に入ってしまった、そんな現代を予見している物語」と、時代を経たことでテーマが一層炙り出されたと確信していた。 ■浅野忠信&白本彩奈は出演の喜びを語る “わたし”の宿敵となるニセ医者を演じた浅野は「27年前の出来事は聞いていたので『このタイミングで!?』とビックリしました。でも、この人たちならばやってくれるだろうという安心感で、最初から目の前に完璧なものが用意されている気がした」と全幅の信頼。 石井監督作「五条霊戦記 GOJOE」「ELECTRIC DRAGON80000V」でも永瀬の宿敵を演じており「永瀬さんの宿敵ばかりをやっていますが…でも、出演できて本当に幸せです」と笑顔を見せた。 ニセ医者が開く安部医院で看護師を務める葉子役の白本は、オーディション合格の瞬間を聞かれて「絵にかいたようなガッツポーズと雄叫びをあげました。受かった実感が湧いてきて、痺れるようなうれしさがこみあげてきた」と喜びを爆発させたという。 石井監督は「白本さんの役に対する解釈には説得力があり、なおかつ堂々としていた。この人ならば日本映画界を代表する猛獣たちとうまくやっていけるのではないかと。こちらの期待以上の存在を示してくれました」と絶賛だった。 最後に主演の永瀬は「今日のことがうれし過ぎて2日前から知恵熱が出てしまいました。でも、皆さんに作品を楽しんでもらえたらうれしいです。いろいろなものが詰め込まれた渾身の一作。水分をとりながら見てください」とアピール。 浅野は「皆さんがどのようにこの作品を受け止めてくれるのか気になるので、SNSに感想を書いてください。それをのぞかせてもらいます」とエゴサを予告する。 白本は「27年越しに描ける今だからこそ、27年前とは違ったものが見えるし伝えられるはず」と期待し、佐藤も「まさに感じ方は十人十色の映画。各々の感想があると思うので、それを知りたいです」と興味津々。 石井監督は「僕は映画館でしかできない体験する映画が大好きです。この映画を通して皆さんにも箱男になってもらい、迷宮の闇の奥に誘われるような冒険をしてほしい。分からないところもあるかもしれないけれど、難しく考えずにすてきな俳優さん方が皆さんをしっかりと導いてくれるので、そこに身をゆだねて体験してください」と呼び掛けていた。 ■「箱男」あらすじ 完全な孤立、完全な孤独を得て、社会の螺旋から外れた「本物」の存在。ダンボールを頭からすっぽりと被り、街中に存在し、一方的に世界をのぞき見る「箱男」。カメラマンである“わたし”(永瀬正敏)は、偶然目にした「箱男」に心を奪われ、自らもダンボールをかぶり、「箱男」としての一歩を踏み出すことに。 しかし、本物の「箱男」になる道は険しく、数々の試練と危険が襲いかかる。存在を乗っ取ろうとするニセ箱男(浅野忠信)、完全犯罪に利用しようと企む軍医(佐藤浩市)、“わたし”を誘惑する謎の女・葉子(白本彩奈)…。 果たして、“わたし”は本物の「箱男」になれるのか。そして、犯罪を目論む偽者たちとの戦いの行方は…。