チャンスを与えるようで時に厳しく、そして成長を待つ――最下位独走でも見えてきた西武・渡辺久信監督代行の「独自色」<SLUGGER>
「5回を投げてくれたら御の字と思っていた。最初は良かったけど、2回からが力みもあったのかな。カバーリングも行かなかったしね」 羽田は登板後にファームに降格させている。 一方の菅井には1度先発を経験させた後に3試合中継ぎに回った後、先発に復帰。チームが8連敗中だった7月15日のオリックス戦で7回を無失点に抑える力投でプロ初勝利を挙げた。 ストレートは140キロ前後ながら、強弱をつけられたのが大きかった。ピンチでギアを上げるなど、力の上げ下げは中継ぎを経験したことの大きさを窺わせた。 一方、エースの今井達也をはじめ、経験豊富な投手には長いイニングを投げさせた。100球制限という杓子定規のような起用法ではなく、先発としての役割を全うさせた。その中で、覚醒の様相を見せたのが6年目の右腕・渡邉勇太朗だった。「一軍で投手出身の監督は初めてで学ぶことが多い」という渡辺はこう語る。 「いつも完投するつもりでは投げているんですけど、もう交代かなとか思ったりすることもありました。代行から『勝てる投手になるためにはもう1イニングだ』と言ってもらったことがあって、『ありがとうございます』って気持ちで投げました。何かは分からないですけど、自分の中で変わる瞬間がありました。自分の自覚は出てきたかなと思います」 5月18日からローテーションに入り、「このまま外されることなく1年を終えたい」と語っていた渡邉勇は、ここまで8試合に先発して1勝2敗と勝ち星は少ないものの、防御率は2.49と安定している。カード頭を任せらるくらいに指揮官の信頼度は上がっている。 渡辺監督代行は長いイニングを投げさせる理由に、渡邉勇に話したように「投手への自覚」を促すとともに「投げる体力をつける」ことを挙げている。これには精神的なタフさも込められていて、隅田知一郎、武内夏輝らは責任ある投球を続けている。 チャンスを与えるようで時に厳しく、そして、成長を待つ姿勢。順位は低空飛行だが、「一時期のどうにもならない状況は脱している」という言葉は決して強がりではない。 とはいえ、最下位を独走している苦しい状況に変わりはない。今後の浮上を目指すには、さらなる厳しい戦いを強いられるだろう。チャンスを与えるだけでは人は成長しない。 渡辺監督代行は後半戦に向けてこう語っている。 「みんな勝とうと意識を持ってやっていますけど、それが結果につながってこなかったと思う。前半戦を検証しながら後半につなげていきたいですね。投手も野手もチャンスが多い、それを生かすということ、毎試合出ている中でいろんな経験をして成長していってほしいですよね。前半戦からチームを見てきて、実際、現場に入ってみても、プロとしてやるべきこと、作戦や動きがうまくいってないというのは感じています。もちろん、これからもチャンスは与えますけど、同じような失敗が続くような選手は淘汰されていくと思います。そこはしっかりやっていかなくちゃいけない」 個人的な意見を言わせれば、ここまできたら敗戦数などは気にしていても仕方がない。何より大事なのは、チームとしての希望を見出せる戦いができるかどうかだろう。どんな野球で後半戦を戦っていくのか。百選錬磨の指揮官がどこまで巻き返せるか注目したい。 取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト) 【著者プロフィール】 うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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