読書よりもYouTube…重度の不眠症に悩む大藪春彦賞作家が直面する「金詰りの暮らしの不安」【「鶯谷」第二十六話#2】
ガチ恋して決心
出勤時間を早くしても、牛丼屋の朝定食が始まるのは午前5時からなのだ。 その時間から朝定食を食べて始発電車に急ぐ毎日だった。 名代富士そばの朝そばが始まるのも同じ時刻かも知れないが、浅草に到着するのは午前6時2分だ。 名代富士そばは浅草の仕事場のすぐ近くにある。 執筆の開始時間がやや遅れるだけで、ことは済むのだ。 久しぶりに『はるの』さんと再会して決心した。 ガチ恋を告白して決心したのだ。 ED薬を服用することにした。 (高血圧なのに? ) (自殺行為じゃない! ) ご指摘は重々理解できる。 しかし忘れないで頂きたい。 くどいようであるが、私は『はるの』さんにガチ恋したのだ。 確かにED薬は高血圧を持つ身には服用が推奨されない薬剤である。 しかし1回だけ、プレイ前の1回だけなら構わないだろうと考えた。 しかもED薬は陰茎に注射する勃起薬とは違い、初回の来院を必要としない。 ネット通販で手に入るのだ。 あいにく店を通さない姫予約は、しばらくは控えて欲しいとのことであったが、たいした問題であるとは思えなかった。 「何度か事前予約をして頂ければ、姫予約も解禁になりますからね」 といわれた。 手玉に取られているとお思いであろうか? (店が禁止している風を装って、繰り返しの指名をとるためにキャスト自身がそう考えているんじゃないの? ) そのようにお考えになる方もおられるかも知れない。 それは邪推というものだ。 『はるの』さんに限ってそんなことはあり得ない。
重ねた嘘
彼女は毎日のようにオキニトークでレスポンスをくれる。 それが途切れることはない。 誠実な人なのだ。 オキニトークには「キテネ!」という機能が連動している。 これはキャスト自身が操作しているものなのだ。 毎日送られてくる「キテネ!」に嘘はないだろう。 私の「キテネ!」には多くのキャストからの送信がある。 過去にプレイしたキャストも含まれるが、まったく接触もないキャストからも送られてくるのだ。 しかも「キテネ!」の送信には1日の回数制限がかかっている、らしい。 その制限にもかかわらず、毎日のように「キテネ!」が送信されてくるのであるから、『はるの』さんの何をどう疑えばいいといいうのだ! 「構わないよ。仕事が落ち着いてきたから、これからたびたび指名させてもらうからね」 嘘をついた。 金のない私にそんなことができるはずがない。 たとえ50分の短い時間であっても、それを支払う金を工面できないのだ。 「次回はもう少し長い時間を過ごしたいね。50分では短すぎるよ」 これも嘘であった。 6月15日には年金が支給される。 それを当てにすれば良いと考えたのだ。 「今度は仕事場に来てもらおうかな? どうせプレイはしないんだから、仕事場でも構わないでしょ」 嘘を重ねた。 浅草の仕事場に来てもらうためには往復の交通費が2,000円かかる。 鶯谷に行くためのタクシー代も往復2,000円だ。 差し引きゼロではない。 それに加え、ホテル代が休憩でも5,000円以上かかってしまうのだ。 その金が私にとってどれだけの負担になるか。 そんなことなどどうでもいい。 (プレイ前に服用するだけなら、常用しなければ大丈夫だろう) そう考えてED薬を注文した私であった。 第二十七話【ペットボトルの水も高くて買えない! 水道水にオリゴ糖を入れて飲んでいる大藪春彦賞作家に起こった「驚きの体質改善」】に続きます。 赤松利市氏の最新刊『あじろ』が絶賛発売中です
赤松 利市(作家)
【関連記事】
- 【最初から読む】大学時代は年間6000冊を読破!寸暇を惜しんで読書に勤しんだ大藪春彦賞作家が本を読めなくなった背景にある「寄る年波」【「鶯谷」第二十六話#1】
- 声も出ず、腰痛も耐え難い…それでも老化を信じたくない大藪春彦賞作家が困窮から犯した「とんでもないミス」【「鶯谷」第二十四話#2】
- ヒマつぶしでも、腰休めでもない!不整脈の疑いを指摘された大藪春彦賞作家が悟った、老人が病院に通う「本当の理由」【「鶯谷」第二十三話#1】
- ネット番組の出演料では、滞納している水道代も満足に払えない…腰痛に苦しむ大藪春彦賞作家がつぶやく「タレント議員への恨み節」【「鶯谷」第二十二話#1】
- 余裕があった頃の施しがアダに!大藪春彦賞作家が浅草寺の喫煙所で女性ホームレスのつきまといから逃げ続ける「納得の理由」【「鶯谷」第二十話#1】