人を食ったような上川隆也の演技がドハマりの人気シリーズ「遺留捜査」(2018)
2024年現在、多数の配信サイトとお茶の間に愛されてきたTVによって数多のドラマが世に送り出されている。予算の都合により出来上がるドラマの規模感は様々で、低予算ながら話題を呼ぶこともあり逆もまた然りだ。 【写真を見る】コンビを組む神崎莉緒(栗山千明)と捜査をする糸村聡(上川隆也) 沢山のドラマの中には過去に放送されたドラマの続編というのも多い。そんな中、製作された本数が異色のドラマがある。第11シーズンまで放送され、スペシャルドラマも10本以上製作された「遺留捜査」だ。 ■「遺留捜査」の圧倒的主人公上川隆也 「遺留捜査」は2011年に放送を開始し、現在では第7シーズンまで製作された人気のある作品だ。本作は原作がなく、脚本家のオリジナルストーリーとなっている。主人公の糸村聡は警部補で、シーズンによって属する部署は変わるが基本的には1人の刑事として事件解決にあたるというスタンスを何処にいても貫いている。糸村を演じているのは上川隆也。元々演技派の上川であったが糸村はハマり役で、あまりに自然体なその演技が「遺留捜査」を長寿番組している一因だ。 糸村はいわゆる天然気質とでも言うべき人物で、デリカシーや気を配るという振る舞いからは離れた人物だ。というのも遺留品を基に難事件の捜査を進める姿はまさしく敏腕なのだが、捜査過程において上司の命令を無視したり、聞き込みで不躾に質問したりと社会人としては些か無神経な態度をよくとる。加えてスタンドプレーに走る傾向もあり、口癖の「お構いなく」と共に忽然と姿を消すことも珍しくはない。個性的で演じるのが難しそうにもみえる糸村の性格に加えて、先に述べた通りこの作品は原作がないため視聴者に共有されたイメージがない。つまり、上川の作りあげた糸村しか視聴者には提供されず、最初に視聴者自身が考えたイメージ等で補足ができない。演じ視聴者に受け入れてもらうのが難しい役どころといえるだろう。 そんな「遺留捜査」の糸村を上川は画面の中に正に「誕生させている」。表情がとにかく素晴らしいのだ。糸村の賢いが故の何処か人間味に欠けた小憎らしい表情やシーズンが進んでみせた人間味溢れる涙など各シーズンに上川の芝居の見どころがある。さらに本人には自覚がなさそうな喋り方をする上川は「相棒」の水谷豊の演技のように真似できるくらい特徴的で印象的だ。恐らく上川以外が糸村を演じた場合、ここまで違和感のない糸村が出来上がりはせず大人気シリーズにはならなかったように思う。 2018年に放送された第5シーズンにおいても上川演じる糸村のキャラクターは健在だが、第1話で、前シーズンからコンビを組む神崎莉緒(栗山千明)が糸村の単独行動を阻止するシーンでは、気まずそうな表情を見せ、まだまだ新しい一面を見せてくれる。 そんな演技の底を見せない俳優・上川隆也の代表作ともいえるこの作品を一度鑑賞してみてほしい。 文=田中諒
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